マジコーネ大陸記｜リアクション

マジコーネ大陸記

「ハジメ、大丈夫かしら……」
　その夜、ボタンは＜たわむれる仔猫＞亭でひとり静かに酒を飲んでいた。
　待ち合わせにこの店を決めてから数日。ボタンはある決まった時間帯に来ては、ハジメを待ち続ける。
　今日も気づけば夜も更けていて、目の前に誰かが立っていた。
「この席、いいかしら。ちょっと座るだけだから」
「……いいですよ」
　今日はもう来ないだろう。
　そう考えて、ボタンは向かいの席を許す。
「誰か待ってるの？」
「……え？」
　不意に問われ、ボタンは相手を――アリサを見返した。
「職業柄、似た表情の人ってよく見るんだ。あたし」
　アリサはウェイトレス服ではなく、踊り子の衣装を着ていた。すでに何杯か飲んでいるのか、ほんのり頬が赤い。ボタンは微笑んで答える。
「ええ、ここで恋人を待ってるの」
「そっか、そっか」
　テーブルの上にうつ伏せになって、アリサはグラスを揺らす氷を見つめる。
「心配？」
「……ええ」
　もし、ずっと戻ってこなかったら――その思いが時折ちらついて、ボタンは恐くなることがある。
「私と似た表情の人を見てきたって、言いましたね？　その人たちはどうなりました？」
「うん。無事に会えた人も多かった……その時のあたしの友達は違ったけど」
「……」
「でも、会える人って共通してることがあるのよ」
　興味を惹かれて、ボタンは黙したまま続きを促す。
「相手の人を信じてる、ってことかな」
「信じてる……」
「うん、その方が気楽だよ。でも、こういう時に気楽な人の方が強いし。そういう人が待つ人も結局、強かったりするのよ」
　運とか、そういったものがね……そう言ってアリサは席を立った。
「場所、ありがとね。あたし仕事に戻るわ」
　そのままステージらしき場所に行くと、アリサは即興で妖艶な踊りを披露していく。
「……なら、ハジメは無事ね」
　――大丈夫、必ず元に戻ってくる
　そう信じているボタンは、チップを少し多めに、酒場を後にする。
　出た直後、怪我人が運ばれてきたが、それが別の人だと分かってほっとしながら。

「シュウくん、大丈夫！？」
　運ばれてきた怪我人に、アオイが慌てて駆け寄る。
「はは、ドジを踏んだみたいだ……」
　痛めつけられたのだろう。苦しそうにシュウが笑う。
「喫茶店でこっそり撮影してたら、気付かれたようだ」
　彼に肩を貸すリュウジが、嘆息する。
「無茶しやがって。寸前で俺が駆け付けてなかったら、危なかったぜ？」
「面目ない……イタタ」
「もうシュウ君たら、危ないって言ったのに……こっち来て、手当てするから」
　アオイが空いたテーブルにシュウを連れていく。
　入れ替わりに、リュウジにはミヤコが料理を持ってきた。
「リュウジさん。この前も、今日も、ありがとう！」
「お、差し入れサンキュ。なに、ここの危機とあっちゃあ俺も黙ってられねえ。宝探しには行かなかった分、俺も何か手伝うぜ！」
「リュウジさん……」
　店の女性陣から信頼の目を向けられるリュウジ。しかし、
「というわけで、その暁にはアズサさんにアオイ、ミヤコ！　おっぱいもませてください！……って、冗談……どいひー！？」
　台詞の途中で張り手され、ぶっとぶスケベ冒険者・リュウジ。
「アオイには、手を、出すな……」
「てめえ、恩を仇で返す気か！？」
　そして真に受けたシュウが飛びかかり、そのまま取っ組み合いのケンカになった。