――大陸中央部・永遠の休息の地――
「困りますねぇ」
この街で唯一の酒場、<たわむれる仔猫>亭では、緊迫した空気が漂っていた。
酒瓶が床に落ち、割れる音が騒々しく響く。
「借りたお金は返す。これは当たり前のことではありませんか?」
酒瓶を割った屈強な男たち――彼らをしたがえた青年が、淡々と言う。
「でも、手持ちのお金はこれだけしか……」
オーナーのアズサが差し出した袋からは、硬貨の音が鳴る。しかし青年は鼻で笑うのみだった。
「どうせ銅貨か、よくて銀貨でしょう? その程度では全然足りませんね。私たちが欲しいのは50ゴールド。それが嫌ならば、この店を手放してもらうしかありません」
「なに言ってるのよ! ほとんど全部利子じゃない!」
ウェイトレスのアオイが叫ぶ。
その顔は悔しさにあふれていた。
「そうですが、それが何か? ちゃんと契約書にも条件は書いてあり、法律的にも有効ですよ。約束も守れないくせに、この期に及んで私を悪者呼ばわりするのは止めていただきたいですね」
「そんなつもりはありません」
アズサの声は暗いものだったが、それでも強い口調で言った。
「でも、期限までまだ七日あります。それまでは私のお店です」
「これは失礼。汚した分は弁償しましょう……まぁ、七日後に何が変わるわけでもないでしょうが」
青年が笑って立ち上がる。
「そうそう。なんならウェイトレスさんたちには良い働き口もご紹介しましょう。ここで汗を流して働くよりも、もっと煌びやかなところで、たくさんのお金が稼げるところがありますよ」
「まっぴらごめんだわ!」
「クク、まあ考えておいてください」
男たちは引き上げていった。
「もうだめじゃ、マンキチと作ったこの店もおしまいじゃ!」
店主のソータローがおいおいと泣き崩れる。
「うぅ、私の料理の腕がもっと上手ければ……」
「私がくしゃみで粗相をしなければ……」
アオイ、そして同じくウェイトレスのミヤコがうなだれる。
「ダメよ、看板娘のあなたたちがそんなんじゃ、お客さんも暗い気分になってしまうワ」
ウェイトレス頭のジェノサイダー☆フジコ(お手伝いサイボーグ)が優しい声を出す。
「そうよ、まだここは私たちのお店よ」
アズサの目からは希望は消えていなかった。
「それに、お爺さんの残した遺産はきっとあるわ」
「あの宝の地図か!」
ソータローが何かを思い出したように元気になる。
「しかし、その地図で示された洞窟はゴブリンやオークたちの住処になっているはずじゃ。それに、そこに行くまでには九夜連邦にある迷いの森を通らねばならん。一日中霧が立ち込め、亡霊たちの闊歩するその場所をどれだけ急いで通ろうとも、片道で2、3日はかかってしまうぞい。生半可な実力では、死んでしまうじゃろうな」
「詳しいのね」
「ハッハッハ。何を隠そう、冒険家だったマンキチに『そこに隠したらいい』と勧めたのはワシじゃからな!」
ボロ雑巾のように転がったソータローを放っておいて、<たわむれる仔猫>亭の面々は話し合った。
「とてもじゃないケド、私たちでは途中で死んでしまうのがオチだわ」
「フジコちゃんなら行けそうな気がする……」
「こーなったら、冒険者組合に頼むしかないわね」
冒険者組合。
各地の古代遺跡を探索して一獲千金を狙ったり、地域に住む人に頼まれてモンスターの討伐やら素材の調達を行う、旅人にしてビッグドリームを追いかける者たちである。
「でも、依頼金はどうするの?」
「手持ちのお金を工面して、あとは遺産を分配する形にしましょう。問題は遺産がいくらくらいかだけど」
アズサがソータローを見る。
「マンキチは、300ゴールド相当の宝じゃと言っておった」
ならば、最低限50ゴールドを受け取った後、取り分を分配する形で募集すれば良いのかもしれない。
「ちなみに、1ゴールドは100シルバー、1シルバーは1000ブロンズじゃ。更に言えば、1ブロンズは1円相当じゃから、1ゴールドは10万円。この店は500万円相当の借金をしているということじゃな」
訳の分からないことをしゃべり出したソータローは放っておくことにした。
「別に冒険者組合の人じゃなくてもいいわ。信用できそうな人には片っ端から声をかけていって。ここは永遠の休息の地。4か国の様々な人が交流する場所だもの。実はご近所さんに元凄腕って人がいるのかもしれないわ」
「それに、七日の間に私たちもできるかぎり営業努力をしましょう。もしかしたら大金持ちが来て、ぽいっと50ゴールドくらいくれるかもしれないわ!」
「そういう考えは、人としてドウカシラ……?」
フジコが首を傾げた。
それはそうとして。
期限は七日。危険な洞窟の探索。報酬は数十ゴールド(推定)。
ハイリスクハイリターンな依頼が、街の中に張り出されるのだった。
こんにちは、叶エイジャと申します。
●概要
<たわむれる仔猫>亭は、50ゴールドという多額の借金を抱えてしまいました。
このまま払えないと、七日後には店を明け渡さないといけません。
そこで、店の創業者の遺産に目をつけました。
300ゴールドというそのお宝がある場所は、危険な森を抜けた場所にある、やっぱり危険な洞窟の中。
果たして、<たわむれる仔猫>亭は窮地を切り抜けることができるのでしょうか?
●プレイヤーの介入手段
主に三つあります。
1、冒険者として洞窟に向かい、お宝を探す。
店の依頼を受け、地図に示された洞窟に向かいます。
この依頼を受けたあなたは、純粋に店を助けたいと思ったのか、報酬が好みに合ったのか、あるいはスリルに満ちた冒険がしたかったのかもしれません。(ほかの理由も?)
この選択をした場合、洞窟に到着したシーンから始まります。
洞窟の中は話に聞いた通り、モンスターの巣窟になっています。
お宝以外にも、モンスターたちが拾い集めた宝石や硬貨などがあるようです。
それに、力尽きた先人の骨や、彼らの一部がモンスター化したゾンビやスケルトンも徘徊しています。
店の方からは、遺産以外のお宝は自由にしてよいとのこと。
ただし、期限までに帰らないといけないので、長くは探索できないようです。
(後述「●アクションの掛け方などについて」参照)
2、店のお手伝いをする・客として出入りする。
この選択をしたあなたは、冒険にはいかないけど、別の形でお店に関わることになります。
冒険の成否については、傍観者の立場ですね。
客として「この店どうなるんだろうなー」と他の人と話しながら飲食して過ごしても、いっこうにかまいません。
あるいは、ご近所の人ととして一緒に料理を作ったり、チラシを配ったり。
自分の店を持っていることにして、イベントを開催するというのもアリです。
はたまた、常連客としてついつい店側に多額の出費をしてしまうのかもしれません。
(ただし、その場合に店側に入った収益は、それだけで借金を返せるほどには絶対になりません)
(後述「●アクションの掛け方などについて」参照)
3、金を貸した男たちの組織に関わる・調べる。
借金の返済相手である男たち。
今回の件で、彼らを法律的に裁くことはできません。
しかしながら、怪しさ満点の組織なので、裏で悪事を働いているかもしれません。
この選択をしたあなたは、以下の二つの行動をとることができます。
・男たちに雇われた用心棒として、男たちに有利な行動をする。
2の人たちに混ざって客の振りをしつつ店の状況を確かめたり、1の冒険者たちを妨害したりするかもしれません。
男たちに組する立場ですが、実はそうすることで内部に入り込んでいるのかもしれません。
・男たちの組織を調べる。
弱みを握れば、借金の話自体がなくなるかもしれない。
あなたは、秘密裏に調査を始めます。
しばらくして、男たちの組織はある巨大な勢力の手先だったと知ってしまうあなた。
もちろん、その事実にたどり着くまでに用心棒との戦いがあったり、組織のアジトに潜入するといった困難があるでしょう。
(後述「●アクションの掛け方などについて」参照)
●世界観
・マジコーネ大陸
寝子島を大陸級にスケールアップした、ファンタジックな世界になります。はるか南には呪われた島「リーン島」があるとか。
大陸には、以下の四勢力が存在しています。また、その四勢力に囲まれる形で中立地帯「永遠の休息の地」があります
・シサイド帝国
闇の帝王が支配する国。
国と言いつつも、その実態は恐怖支配であり、色々な意味で荒れた国です。
いつどこでモンスターに襲われても――それがたとえ町の中でも――おかしくないのです。
「強く、抜け目がないこと」が、この国で生きる秘訣です。
首都には幾多の人々の血を吸ったコロッセオがあり、盗賊・暗殺者・傭兵のギルドでもタチの悪い連中が幅を利かせています。
帝国は国内を完全には掌握しておらず、特に南部の都市では、表面上は従っていても心から忠誠は誓っていない人々がレジスタンスを作っています。
・キュシガ王国
古き良き時代からの伝統を受け継ぐ、歴史ある国。
守護竜サンダードラゴンに守られしこの国では、人々は明るく暮らし、生活水準もスタッヒル法皇国についで高いと言われています。
王国の首都を中心に古の時代の迷宮が数多く発見され、冒険者たちによるトレジャーブームが巻き起こっています。
シサイド帝国とは長らく犬猿の仲で、中立地帯「永遠の休息の地」を挟んで互いを睨み合っています。
もし、中立地帯にどちらかが干渉すれば、それは戦争の火種になりかねません。
執政はおおむね良いものですが、長きにわたる平和の間に、一部貴族による腐敗が進んでいます。
ブームもあって冒険者組合がもっとも多く、戦士や剣士、武闘家や魔法使いのギルドは大陸一の実力者ぞろいです。
・九夜連邦
険しい山や、深い森にほとんどが覆われた九大部族の連合国家。
先祖たちの伝統を大事にするせいかどこか保守的である一方、新しく面白いことを始めようとする気性の持ち主も多いです。
他の国で活躍する商人や技術者は、この地域の出身者だということも珍しくありません。
狩猟に長けた者や弓の名手がそろっており、また大陸で広く使われている魔法とは別系統の魔法を使う者もいるようです。そうした技術を習得した者の中には、他の国で修行をすることで弓や剣といった複数系統の武器に熟達したり、複数系統の魔法を自在に操る者もいるでしょう。
争いは好まない彼らですが、近年は帝国側からの賊やモンスターの増加に頭を悩ませており、もし帝国と王国の戦争になったら、王国側につくと言われています。
・スタッヒル法皇国
この世界を創りし神、猫神(ゴッド・キャット)を信奉する国です。
また、大陸中にある教会の総本山が、首都にあります。
一説によると、教会には特殊工作員が派遣されていて、国からの密命を受けたり、情報収集などを行っているとも言われています。
国民の生活水準自体は大陸中世界一で、国民一人あたりの一か月の給料は最低3ゴールドと言われています。
法皇が治める国として全国民が信者であり、僧侶の層は厚いです。
また、剣と魔法を自在に操れる「聖印騎士団」は大陸中でも最高峰の実力者ぞろいと噂され、特殊工作員の噂も彼らを元に生み出されたものと言われています。
中立地帯「永遠の休息の地」の安寧を主張し、どの勢力の侵犯もないよう目を光らせています。その一方で、この地に建てた教会から莫大な寄付金を得ており、他の勢力からの心証は悪いです。
●「永遠の休息の地」
はるか昔に神が降臨し、人々と共に暮らしたとされる地域であり、一つの小さな街。
スタッヒルを主導とする条約により、勢力間の争いはここでは持ち込まないことになっています。
ただしそれに強制力はないので、実際には各国のエージェントがいたり、裏で暗躍があったり、逆に何もなくて、かつての実力者がのほほんと暮らしているだけの場所かもしれません。
ここに住んでいる人は申請すれば自分の店を持つことができ、今回の冒頭に出てきた<たわむれる仔猫>亭も、かつての冒険者が建てた酒場でした。
町唯一の酒場(非公式は除く)とあってか、歴史ある店として繁盛してきました。
大陸有数の猫神教会が建設され、また四つの勢力の中央にもあるため、人や物の行き来がとても活発です。
ところがつい最近、青年をリーダーとする高利貸しの業者が現れました。
街のはずれに広大な屋敷を建て、次々と店舗を潰しているようです。
そんな彼らに、酒場もついつい金を借りてしまって、危機に陥ってしまったようです。
●アクションの掛け方などについて
★冒険者として洞窟に向かい、お宝を探す場合
町から洞窟までは迷いの森があり、洞窟の先には険しい山があります(道中の描写はありません)。
洞窟内の地図は、こちらです。
はるか以前に書かれたものなので、本当かどうかは分かりません。変化している場合もあります。
<宝の地図>
①入口
洞窟の入り口です。
②ゴブリンの見張り
ゴブリンの見張りが二匹、いるようです。
③コウモリとゴブリンチーフ
どうやらコウモリと、ちょっと強めのゴブリンがいるようです。
探せば宝石くらいは見つかるかもしれません。
④???
途中で道の描写が不自然に切れていて、粒のようなものが描かれています。行き止まりでしょうか。
地図を書いた時、奥まで行かなかったのかもしれません。
⑤ドクロマーク……?
部屋の中央に骸骨が描かれています。
危険なのか、それとも骨があるのか……いずれにしろ良い予感はしません。
⑥行き止まり
ソータロー氏の話では、当時ここはゴブリンたちが洞窟の拡張工事をしていたそうです。
⑦鍵のマーク
このカギは何なのでしょう? でも、宝箱と言えば鍵ですよね!
⑧吊り橋
が、あるそうです。
⑨謎の★マーク
話によると、ここには魔法の扉があって、合言葉が必要だとか。
「仔猫は今どうしている?」と聞かれるそうです。
⑩お宝
一体何なのでしょうか?
⑪PC情報:最終決戦
妨害しに来た高利貸しの男たちと、戦闘があります。
探索を上手く行っていれば、回避できる可能性もあります。
以上から怪しそうなところを調べていってください。
それぞれの番号では探索ができます。
探索は、残り時間や探す部屋の数で成功判定が行われます。
調べる番号の数が少ないほど成功率が上がり、多いほど下がります。
メンバーに九夜連邦出身者がいれば、かなりの確率で成功するようになります。
★店のお手伝いをする・客として出入りする場合。
この場合は、お店に出入りする人との交流(参加PC、NPC)がメインとなります。
・登場NPCについて
アズサ:店のオーナー兼ママ。寝子島の理事長より性格が良い。
アオイ:ウェイトレスで働き者。いつか自分の店を持ちたいと思っている。しかし彼女の作った料理は不評なので、もっぱら給仕係。
ミヤコ:ウェイトレス。給仕がしたいが、よくくしゃみをして料理をまき散らすなど不幸な結末にするため、もっぱら料理&雑用。
ソータロー:店主兼バーテンダー。アズサの祖父とともに酒場を建てた。涙もろい。
じぇのさいだー☆フジコ(お手伝いサイボーグ):古代遺跡より発掘された万能サイボーグ。ウェイトレス頭をしている。
★金を貸した男たちの組織に関わる・調べる場合の主な行動。
一、男たちの後をつけるor仲間になるor聞き込みをする。
二、屋敷の奥に潜入して、秘密を知る(犬や、屈強そうな男たちが徘徊している。こっそり行くか、力ずくか)
※完全に仲間になった場合は、酒場存続に不利になるように動くかもしれません。
三、秘密を知って、狙われる(強敵との戦闘、あるいは逃走)
→秘密を誰に話す? それとも黙っている?
・出身地について
決めない場合でも問題ありませんが、出身地を決めれば、リアクションでマスターのアドリブで動機がプラスされます。
出身地がシサイド帝国ならば、男たちの組織に関わる・調べる際、とても有利に働きます。
キュシガ王国の場合は、洞窟に向かった際の成功率があがります。
九夜連邦の場合は、お宝探しに洞窟まで向かう時間を短縮できます。また、ろっこんの効力が増します。
スタッヒル法皇国の場合、密命として本国から酒場を救えと命じられることになります。
職業はあくまでイメージなので、なにを名乗っても構いません。
ただし、聖印騎士はスタッヒル法皇国出身者のみとなります。
●PL情報
高利貸しの男たちは、実は中立地帯を支配に置きたいシサイド帝国の尖兵(秘密情報)です。
立ち退く店を増やし、帝国資本の店を進出させる算段のようです。
冒険を成功させることで酒場を救うことはできますが、その場合男たちは別の店をターゲットに行動するでしょう。
どう動けば正解、というものはありません。
状況がどう変化するかは、参加者様の行動次第です。
なお、秘密情報は町の教会か、王国の駐在官にもっていけば、男たちは撤退します。
結果次第では、シリーズ化する可能性もあります。
それでは、皆様の参加とアクション、楽しみにしております。
ここまで呼んで戴き、ありがとうございました。