マジコーネ大陸記｜リアクション

マジコーネ大陸記

「えっと、こっち……かな？」
　火と煙の中を、ハジメはひた走る。
　すでに屋敷は手がつけられないほどの火が回り、黒服たちも避難に移っている。幸いにも厄介事と遭遇することなく、ハジメはその中を奥へ奥へと向かって進んでいた。
　やがて開けっ放しの扉から、最奥の部屋へと入る。
「！」
　部屋は酷いありさまだった。
　激しい戦闘があったと思わせる、床や壁の血、斬撃や魔法による破壊の跡。当事者は破壊された窓側の壁から出ていったのか、中には誰もいなかった。
　そして、蓋を揺らす金庫をハジメは目にする。
「……やっぱり、おねえちゃんの言った通りだ」
　中にあったのは、高利貸しの男への指令書だった。そこに書かれている内容をハジメは読み上げる。
「帝国騎士団、所属……？」
　その時、破砕音が部屋に響いた。
　扉を突き破って、黒装束の何者かが床の中に転がり込んでくる。
「てめえ……！」
　追って入ってきたのは『犬使い』ケンウッドだった。全身に火傷と切り傷を負った賞金首は、憤怒の目で黒装束――リョウを睨みつけている。
「一体何なんだお前は……この俺が、お前なんかに！」
「ちょっとやられたくらいで騒ぐなよ」
　リョウはそう言って立ち上がった。受け身をとっていたので、さしたる負傷もない。
「簡単な話だ。お前の戦闘力は実質犬で、お前自体が強いわけじゃない」
　ケンウッドに付き従う犬はもうたった三匹しかいない。ほかはすべてリョウとの戦闘で斃れたか、炎に怯えて退散したのだ。
「後ろでコソコソせず前に出てきた時点で、負けたも同然だ」
「許さねえ、ぶっ殺す！」
　挑発に、犬使いは簡単に逆上する。そこまではリョウの予想通りだった。
「犬ども、こいつらを殺せ！」
「！？」
　リョウはそこで、部屋の奥にいたハジメにようやく気付いた。ハジメが目的の書類らしきものを持っていることも。
「おい、壁の穴へ走れ！」
「は、はい！」
　切羽詰まった声と犬が走ってくる光景に、ハジメは素直に言う通りにした。すぐ後ろで犬の悲鳴が聞こえ、次の瞬間には黒装束に抱え込まれている。
「男か！？　まあいい、跳ぶぞ！」
「え、え！？」
　何を言う暇もなく、二人は外の闇に身を投じた。