マジコーネ大陸記｜リアクション

マジコーネ大陸記

「何事です？」
　騒ぎの大きさに気付き、青年が寝台から起きあがる。窓の外は赤く明るかった。
「ボス！」
　サキリが部屋に駆けこんできた。扉の向こうの廊下からは、煙が入ってくる。サキリは全身に怪我を負っていた。
「侵入者です。屋敷に火が放たれました！」
「なに！　どのような手合いです」
「それが、どうも複数いるようで……屋敷内と庭をほぼ同時に放火し、庭には陽動らしき男が一人暴れています。屋敷内では犬使いが交戦中。僕も別の侵入者と戦いましたが、後れを……」
　そこまで言って、サキリは失血で膝をつく。
「ボス、ここは危険です……早く金庫の中の物をもって、安全な、場所、に……」
　そして倒れたまま、動かなくなる。青年はそれを一顧だにせず、機敏な動きで隠し金庫を開け始めた。
「バカな。我らが帝国軍だと知られたとして、こんな表だって攻めてくる時期ではないはずだ。一体どこの勢力が……」
　余裕をかなぐり捨てて、青年が金庫を開けた。必要な書類を取り出しかけ、はたと手が止まる。
「しまった、貴様もスパイか！」
　青年は振り返りざま、懐から抜いたナイフを一閃する。
　忍び寄っていたサキリは、逆手に構えたナイフでこれを受け止めた。
「あと一歩だったか。どこで気づいたんだい？」
「金庫は私しか存在を知らない……危うく騙されるところでしたよ、サキリ君」
　青年は平素の口調に怒りをにじませ、サキリを押した。サキリは逆らわずナイフを捨てると、片刃戦斧を二挺、両手に握る。
「帝国出身、コロッセオ育ちというから信用したのに、裏目に出ましたか。この騒ぎは君の仕業ですか？」
「さあね。でもこれだけは言っておく。そのコロッセオで、仲間は無念のうちに死んでいった……故郷を滅ぼしたお前たちを僕は決して許さない。闇の帝王に連なる者はすべて敵だ」
　迫害によって故郷を失い、剣闘奴隷として殺し合いの日々を生き抜いてきた少年。それがサキリだった。
「気絶に留めるつもりだったけど、軍属と聞いて気が変わったよ。恐怖を味わってもらおうか」
「……寝言はそこまでですよ、奴隷君」
　青年が笑ってナイフを構える。
「！」
　青年から立ち昇るどす黒い魔力に、サキリは表情を引き締めた。