新生ショッピングモール、ただいま店舗募集中！｜リアクション

新生ショッピングモール、ただいま店舗募集中！

■シーン３：バイト戦士、橘勇
　橘勇はカフェ店員である。
　299coffeeのカウンターで働く彼の日常から語ってもよいが、流石に尺不足ということで……。
「ショッピングモールね。新しい店を見て回るのも、おもしろそうかな」
　勇は本土に新設されたというショッピングモールへやってきていた。
　数件のバイトを掛け持ちするような彼である。フットワークの軽さも相まって、寝子島の外まで足を伸ばした次第である。
　寝子島の店がいくつか出張していると聞くが、目新しい雑貨屋なんかもあるだろう。手元には期間限定の商品券まであるのだ。賑わう場所を歩くというだけでも、価値はあろう。
「最初はどうしようかな。店をぐるっと見てから、書店あたりを覗いて行くか」
　まだ読んでいない小説を買ったり、無線資格の本を手に入れたり。ゲームセンターで遊んでいくのも悪くない。
　今日はホリデー。自由気ままに歩いてみよう。

「と、思っていたんだよ」
　カフェのホールに立ち、勇は外を眺めた。
　大胆に壁のほとんどをガラス張りにしたおかげで、雰囲気はまるでカフェテラスである。昔ながらのカフェとは趣が随分異なるようだ。
　そばでは莉鳥やアカリといった美少女（どちらも美少女に見える）がにこやかに接客にはげんでいる。
「なんだか流されるように職業体験を。俺ってこんなに流されるタイプだったかな」
　とは言いつつも、フロアに立ってしまったものはしょうがない。
　ここは飲食業界における戦場。ひるんだら負けである。何に負けるかはともかくとして。
　因のあざとさ抜群の接客テクニックは大体参考にならないが、見るべき所はある。
　妙に視野が広いのだ。後ろに目が突いているのかというほど、客の『注文を取って欲しそうな空気』や『空いた皿が邪魔になりそうな空気』に気がつく。
　ぱっと見は凜とした、対応していて緊張しそうな莉鳥は客の前に出たときだけは穏やかな表情を維持している。くつろぐ場所であることを意識させるためだ。
　それに姿勢もいい。背筋をぴんと伸ばして、モデルのような歩き方をしている。
　意識しすぎると糸吊り人形のようになってしまうが、腰と肩を意識して立つ癖がついているのだろうか、とても自然だ。
　アカリはぎくしゃくしてはいるが、発声がしっかりしていて聞き取りやすい。
　注文を繰り返す作業が邪魔になりやすいフロア作業において、かなりさりげなく確認をとっていく。素直な性格が表に出ているのかもしれない。
「よし、ここは勉強の場だと思って……」
　勇も自分の中にルールを作って、接客に勤しんでみた。
　どんな風に勤しんだかは、また後のシーンでお楽しみ頂こう。

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