この架け橋を渡りたくば――｜リアクション

この架け橋を渡りたくば――

●

　令から出されたアイコンタクトに応え、亮と蛇那伊と入れ違う形で出てきたのは修だった。
「大変だったな、ええっと……」
「ルシフェル。我が真名はルシフェル也……！」
　大丈夫か、と修は手を貸して自称ルシフェルを起き上がらせる。
「気になってたんだが、真名って魔術的・呪術的には秘めるものじゃなかったか？」
「えっ」
「真名が知られていると呪われたりするらしいが」
「……ふっ。わ、我が体躯には絶対無敵対呪術結界が宿っている。その自信の現れよ」
　あ、こいつ絶対今考えたな、と半目で修が見る中、自称ルシフェルはそう言ってホルスの眼が描かれた眼帯をめくる。そこにはあからさまにカラーコンタクトな青眼があった。
「なんで包帯にはキリルとかギリシア文字なのに、眼帯にはホルスの眼なんだ？　ロシア、バルカン、アフリカって全く関連性がないだろ」
「だ、黙れ！　貴様など我が《根源》に接続されし《深淵を覗き込む》ウルティマソードのサビに――」
「由緒ある剣のように扱っているけど、それメイドインジャパンって書いてあるんだが……」
　ほらそこ、と柄の部分を指せば、そこには「Made in Japan」の文字が。
「えっ、これってそういう……？」
「…………」
「や、やめろ！　そんな生暖かい目で我を見るな！」
　修の矛盾の指摘はそこそこ効果があったようで、地団駄を踏むように自称ルシフェルは抗議の声を上げる。打って変わって平和な光景だった。
「そういえば『栄光と贖罪の架け橋』……。そう言ってたね。どれが栄光で、どれが贖罪なんだ？」
　修はいつものように頭を働かせる。罪罰で『墜ち』、そして大学への通学路の途中。これらはおそらく、自称ルシフェルが大学受験に失敗したことを暗示しているのではないか、と。
「おかしいと思わないか、大学進学だけが栄光の道じゃない」
「えっ」
「……えっ」
　素っ頓狂な声を上げる自称ルシフェルに、ややあって修も素っ頓狂な声を上げてしまう。
「……『天に生まれ、しかして許されざる《罪罰》によってこの地に堕ち』で、大学への通学路の途中が『栄光と贖罪の架け橋』だろ？」
　眉をひそめて修が確認すると、自称ルシフェルは「ああ、なるほど！」と得心いったように手を打った。
「えーと、そうなんだ、実は俺、大学試験に失敗して……」
「待った、今の間は何だ。俺が言い出してからその設定で行こう的に今決めたよな？」
「そ、そんなことないでござるよぉ」
「しらを切るならせめてキャラブレするなよ……」
　さすがに深読みし過ぎたか、と修は頭痛を感じて眉間を指で揉むのだった。

このページにイラストを設定する