この架け橋を渡りたくば――｜リアクション

この架け橋を渡りたくば――

「漆黒の契約をここに――」
　猫の恋、という言葉がある。
「我、深淵を覗き込む者也。我、深淵に魅入られし者也」
　初春、2月頃の季語だ。大体この頃から、島の雄猫たちは雌を求めてそわそわとし始め、時には雄同士での喧嘩にまで発展したりする。そういった恋に浮かれる猫たちのことを表した言葉だ。
「今、盟約によって結ばれし我らが契りを履行せん！」
　まだ肌寒くはあるものの、時折見える梅の白い花は見事であり、また路傍では緑の気配を感じ始める。
「ああ、もうすぐ春なんだな……」
　街の猫たちや自然、そして目の前にいる頭おかしい自称ルシフェルを見るたびに、八神修はそう思うのだった。
「なんだあいつ、頭のネジが一本二本どころか全部抜け落ちてそうだな……」
　そこら辺をぶらついていたところを鈴金令に捕まった新田亮は不審そうな目で自称ルシフェルを見る。明らかにヤバい人を見る目であった。
「厨二病、ねえ。普通に発病？　してる分には生暖かく見守るだけだけど、橋を占拠されると迷惑ね」
　困ったわぁ、と溜息をつくのは尾鎌蛇那伊である。今回は公衆の面前であるがゆえに、武力行使というわけにもいかずさてどうしたものかと彼は思い悩む。
　関わりたくない。様子を見たい。各人が各人の思いを抱きながら、橋の上の男を見るだけの時間が過ぎていく。
　その時だった。彼らの横を、駆けていく少女がいた。

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