寝子島シーサイドタウン。同駅の南口から出て南へ少々。それが木天蓼大学寝子島キャンパスへの最短ルートだ。当然、その道で通学する学生も多い。
その途中に一つ、橋がある。どうということはない街にある、コンクリートでできた橋だ。
その橋の中心に、今日は何やら怪しい魔法陣のようなものが大々的に描かれていた。
そして、その魔法陣の中心に立つ男が、一人。
「この架け橋を渡りたくば、我を倒してからにしてもらおうか」
――厨二病患者、であった。
赤いマント――おそらくはパーティーグッズの一種だろう――を羽織り、全身真っ黒の衣装に身を包んだ青年だ。両腕には何やら奇怪なルーン文字やらキリル文字やらギリシア文字、果てには彼自身の独創と思しき文字が墨で描かれた包帯がぐるぐると巻かれている。寒い時期だろうに、わざわざこの包帯を誇示するためか黒いシャツを腕まくりをしているのが最高にダサい。
「ヤバい人だ」
と、やや呆然としながらも素直な感想を口から漏らしてしまったのは、鈴金 令だった。
時は土曜日。ちょうど寝子島キャンパスのオープンキャンパスが開かれていた。令も進学先の調査に、と寝子島キャンパスへ向かおうとしていたのだが――。
「真名ヲ解禁ス。――我が名はルシフェル! 天に生まれ、しかして許されざる《罪罰》によってこの地に堕ちし、禁呪をこの手にした闇の魔術師!」
この男――自称ルシフェル――が橋を占拠していた。
「ヤバいどこから突っ込めば良いのかわからない……」
自称ルシフェルの精神的な痛々しさに思わず天を仰ぐ令。ああ、今日も空が青い。快晴なのに寒いのはやっぱり季節だなぁ。
「おい――おい、そこな小娘!」
――などと現実逃避をしていると、向こうの方から絡んできた。
「汝、この栄光と贖罪の架け橋を渡りし者か?」
「な、なんかよくわからないけど、うん。橋は通りたいかな」
長剣――刀身にマーカーで色々文字が書かれてる。多分パーティーグッズ――を向けながら問いかける自称ルシフェルに気圧され、頷いてしまったのが令の運の尽きだろう。
「ならばこの我、ルシフェルを倒してからこの橋を通るが良い!」
バサァ、とマントを翻し、片目を手のひらで覆う。その目には医療用の眼帯――なぜか“ホルスの目”のシールがわざわざ貼られている――が当てられていた。
変なのに絡まれた。そう気付いた時にはもう遅い。誰か助けてくれと令は周囲の人へと目を向けると、すでに彼らは遠巻きにこちらを見たり、あるいは別の橋から大学へ行こうと迂回路へと向かっていた。つまり完全に見捨てられていた。
「ち、近づかないで! 警察呼ぶわよ!?」
ジリジリとにじり寄る自称ルシフェルにスマホを突き付けるように見せ付けて牽制する令。それを見て彼は立ち止まり、しかし冷笑した。
「そのような輩など、とうに撃退した後よ」
他愛なし、と髪を掻き上げる自称ルシフェルを見て、令は目を剥く。見たところこんな剣の握り方も知らないような黒もやし男ごときに警察がそう容易に倒されてしまうとは思えなかった。
「我が生い立ちから聞かせてやったら奴め、何やら『イタイイタイ』と頭を抱えて苦しみ悶絶し、逃げて行きおったわ」
「精神攻撃が基本だったかぁ……!」
おそらくは歳を重ねていた分、過去の自分とダブる部分もあって余計に“刺さった”のだろう。
「だいぶ恥ずかしい人だねキミ!」
「恥ずかしい……? フッ、恥などと下らない。我はとうに感情など捨てた」
「恥ずかしい上に面倒くさい人だ……!」
「その侮辱の言葉、宣戦布告と受け取ろう。征くぞ、死の舞踏を始めよう。閃け我が《根源》に接続されし《深淵を覗き込む》ウルティマソードよ……! 喰らえ滅尽滅相・ウルトラシャイニングハイパーカラミティグランドクロスッ……!!」
「メチャクチャ感情あるじゃんうわ危なぁ!?」
ブンブンと無茶苦茶に振り回されるただのオモチャの長剣をバックステップで回避する。
「フッ、今の剣風から逃れ得るとは、貴様なかなかの達人と見受ける……」
「きゅ、急にこいつあたしのこと持ち上げ気味に設定捏造しにかかってきた!?」
「あるいは貴様こそ、前世からの宿敵なのやも……いやきっとそうに違いない。そういうことにしよう」
「しかもかなり強引に来たぁ!?」
「さあ、過日に交わした決闘の約束、今ここで果たそうではないか! 神々の黄昏を始めよう! アポカリプス・ナウ!」
チェストォ、と怪鳥音と共に大上段に剣を振り上げて迫る。
「ああもうこの中二病――!?」
さすがにこのままオモチャの剣で殴られて、地方新聞の記事に自分の名前が巻き込まれ気味に飾られるのは嫌だ。叫びながら、令は逃げる他なかった。
令が逃げる中、後背から聞こえてくる自称ルシフェルのわざわざ練習していたくさい高笑いが妙に腹立たしく耳に残るのであった。
●
「それはなんというか……災難だったな?」
「わーいテオに同情されたー……」
ということは今回のあたしかなり不幸だったな? 勝手に
テオドロス・バルツァを基準にしながら令は溜息をついた。
自称ルシフェルから逃げ出した令は散歩中のテオを捕まえてさっきあったことを愚痴っていた。
「しかしアレはまだあそこにいたのか」
「もしかして、あいつってずっとあそこに……?」
「いたな、少し前からだが」
退屈そうにあくびをし、かしかしと首元を後ろ足で掻きながらテオは続ける。
「一度見てきたが、おそらくはろっこんの影響だろう。アレの痛々しい言動を聞いていると、余りの痛々しさに自分まで恥ずかしくなって悶絶してしまうようだ」
ああ、と令は警察が“撃退”されたのを思い出した。あれはきっとそういうことだったのだろう。
「歳を重ねていたり、クールやインテリ気取っていたり、あとは、“厨二病”だったか? それを過去に患っていたり、現在進行系で患っていたり。そういう輩はアレの痛々しさの前では相当な思いをするだろうな。普通の人生送っててもかなりの思いをするだろうが」
「でしょうね……。ああでも、時々いる無感情系とか、不思議ちゃんとかはどうなるんでしょう?」
「さっき言った輩の場合は“感情の増幅”だが、どうにもそういった輩の場合は概念的に、その場限りとはいえ感情が“植え付けられる”ようだな」
つまり、余りの痛々しさに強制的に恥ずかしいと感じてしまうらしい。
「とんでもなく迷惑なヤツだったかぁ……」
どうするんだアレ、と頭を抱える令。警察に頼ろうにもあの有様だし、あの目立つ町中でろっこんなり武力行使で無理矢理どかしても、悪いのはお前だ、ということになりかねない。
「あれ、もしかしてこれ地味に詰みでは……?」
「そうとも限らん。ああいった手合いは矛盾点をあげつらって煽ってみたり、あるいは似たような輩をぶつけてみて、己の姿を客観視させてやれば存外折れるものだ」
「それいわゆるノーガード殴り合いって言わない?」
「あるいは我慢比べかもしれんな」
相手からの“精神攻撃”に耐えつつ、持続的に煽ったり厨二病したりすることで相手を精神的に殺しにかかろうと、そういうことらしい。
「なるほど、それならやっぱり人数を用意して、誰かが戦闘不能になっても戦力を持続的に逐次すれば勝機が……」
顎に手をやり、令は考え込み始める。妙なスイッチが入った。呆れたテオはふんと鼻を鳴らした。
お世話になっております、豚野郎でございます。ぶひぃ。
今回は、
「厨二病をからかったり、厨二病対決してみたりしよう」
というコミカル系のシナリオです。
基本ギャグです。参加者はみな、自称ルシフェルの余りの痛々しさに精神攻撃を食らってダメージ受けたり悶絶するものと思って下さい。
全体的な流れとしては、たまたま通りがかったり、迷惑者を退治しようと来たり、あるいは単に野次馬したりしていたところを(場合によっては半ば強制的に)集められた10人全員が一人ずつ特攻していき、精神攻撃の応酬を決着が付くまで繰り返します。決着後、恥ずかしさの余り気絶した自称ルシフェルからろっこんの影響は消え去り、橋には平和が戻ります。気絶したルシフェルは放置していても後で回収されます。
一応NPCとして鈴金 令が同行しますが、あまりの痛々しさに積極的に関わろうとはしないです。絡みたい場合やネタのダシにしたい場合、アクションなどでご指定下さい。それ以外の場合は基本的にあまり描写されません。
相手の設定的な矛盾点やメチャクチャな点を突く場合、煽り文句もお書き添え下さい。
また、自分のPCの恥ずかしい思い出、黒歴史などございましたらこちらもまたお書き添え下さい。
自称ルシフェルの自称する設定についてはPL様方からご提案頂き、それをダシにして煽って貰うようなアクションも可能です。必ず設定を拾えるわけではありませんが、よろしければどうぞ。
なお、ご提案頂けた自称ルシフェルが自称する設定以外の情報については採用する予定はございません。また、アクション内などでのURLは参照致しません。ご了承下さい。
それでは、皆様のアクションをお待ちしております。ぶひぃ。