瞬間の魔法｜リアクション

瞬間の魔法

「ふっ……予約しちった」

　鵙海甫は震える指で通話終了ボタンを押した。その興奮冷めやらぬうちに、甫は千堂結にメールを送る。

from:甫
to:千堂
件名：予約した
本文：
例の写真館
カップルプラン予約した
待ち合わせ遅れんなよ

　簡素なメールだったが、甫にはカップルプランと打ち込むのが精一杯だ。

（……ちゃんとしたスタジオで写真を撮ってもらうなんて初めてだしな）

　今の彼の気分は、それこそ遠足前の小学生だ。
　キャンペーンがやっていなければ、絶対に予算オーバー。高校生にはハードルが高い娯楽だ。
　だからこそこのチャンスを棒に振るわけにはいかない。
　スパートフォンが着信を告げる。相手は結。どうやら返信がきたらしい。

　＊＊＊

from:結
to:甫君
件名：RE:予約した
本文：
甫君、予約ありがとう！
遅刻しないように気をつけるね。

それにしても変身写真館、かあ。
変身……。
いつもと違う自分になれるんだよね、わくわくする……！

　送信ボタンを押してから、結はふぅと息を吐いて肩の力を抜いた。
　それからカレンダーに丸をつけて、待ち合わせ時間を書き込んで――頬をぽっと赤く染めた。

（で、でも、これってその……デート、なのかな……！？）

　考えれば考えるほど、鼓動が早まり居ても立ってもいられない気分になる。
　気を紛らわせるために当日はどんな服を着ようかな、とクローゼットの前に立つが、写真館で着替えてしまうことを思うと、気分転換にしては案外難しい問題だった。

　＊＊＊

　待ち合わせの十分前に星ヶ丘駅で合流した甫と結は、少しゆっくりめに変身写真館へ向かった。
　変身写真館で髪をセットするので髪を結わないできてほしいと言われたらしく、結はいつもと違って三つ編みはしていない。まっすぐ髪を下ろしている。
　私服は何度か見たことがあるのに、ただそれだけのことで甫はなんとなく落ち着かない気分になった。
　緊張しているのは結も同じらしく、写真館に到着するまでの二人はやけにぎこちなかった。

　けれどサンプル写真を見ながら、二人でどんな写真を撮りたいか話しているうちに、いつもの調子が戻ってきた。

「スタジオは館がいいな」
「えっとじゃあ私……お嬢様の格好、とかしてもいいかな？」
「おう！　じゃあ俺は、千堂のお世話する感じのポジションで」
「お世話っていうと……」
「執事？　ナイト？　よく知らないけどそういう役がお決まりで付いてるじゃん」
「なるほど！　甫君が私の執事でナイト……」
「どっちがいい？」
「え！？」

　甫が尋ねると、結は「うーん」と本気で考え込んでしまった。
　それを見かねたスタッフが「カップルプランですので、二着ご衣装を選んでいただけますので……」とフォローを入れてくれる。

「じゃあどっちもやっちまうか」
「……うん」

　スタジオやコンセプトが決まったところで、次は衣装だ。
　相談した結果一着目はテーマだけ決めておいて、衣装はそれぞれが選ぶことにした。
　テーマは『ヴィクトリア調』。
　甫はヴィクトリア調の服装というものがどういうものはハッキリとはわからなかったが、いわゆる英国紳士を思い浮かべればいいらしい。典型的な執事も含まれる。

「ちなみにこの時代の騎士だとどんな格好になるんだ？」