瞬間の魔法｜リアクション

瞬間の魔法

瞬間の魔法「無表情な笑顔」

　初めて会った時から、跡野茉莉とは雰囲気こそ違えど、心の奥は繊細な部分か何かしらが似ているのかもしれない。そう感じていた。
　鏡越しに茉莉の姿を見た瞬間、回田はつなの抱いていた既視感は確信に変わる。
　同じ格好。同じ髪型。表情は違う。けれど深淵の黒を思わせる瞳は、やはり近いものがあった。
　茉莉の奥にも横にも鏡・鏡・鏡。宝石と照明が乱反射して、上下左右が曖昧になってしまったような感覚に陥る。けれど茉莉の目を見ていると、不思議と地に足がついていると実感できた。
　はつなに気がついた茉莉が振り向くと、カチリと目が合って、互いに黙り込んでしまう。
　気恥ずかしく思っても、目をそらせないし、笑ってごまかすこともできない。
　張り付いた微笑を浮かべたまま、はつなはまっすぐに茉莉を見つめ、茉莉も目を逸らすことなくはつなの視線を受け止めた。

　それくらい、彼女は目が離せないない存在なんだ。

　はつなに小さな衝撃が走る。鼓動が早まる。頬が熱くなり、笑みが深まる変わりにフワリと花が舞い上がった。

「おっ、面白い仕掛けだね……！」

　激しいフラッシュとシャッター音の中、はつなは静かに問いかける。

「ね。私達、もしかして似た者同士？　正反対かもしれないね。茉莉ちゃんはどっちだと思う～？」

　茉莉の表情は変わらない。もしかしたら、聞こえなかったのかもしれない。それならそれでもいい。もう一度わざわざ尋ねようとは思わなかった。
　花が止み、足もとに募る。後で掃除をしなければ――などと考えていると、目の前の茉莉の瞳に小さな光が灯った気がした。

「両方とも合ってるような気がする。えっと、点対称の図形みたいな……」

　点対称の図形のよう。そう言われても今ひとつしっくりこない。
　ひっくり返しても一致する。反対でも同じ、ということなのだろうか。

「パズルのピースみたくかみ合うようになれたら嬉しいな」
「ピースか～！　それ、すっごくいい表現。でもぴったりはまったら離れられなくなっちゃうかもよ」

　はつなが同意したその瞬間、金縛りのような衝撃から解き放たれ、パチンと両手が合わさった。

「あれ～？」

　首を傾げてもう一度茉莉の目を見るが、先ほどのような不思議な感覚にはならなかった。

「……撮影って～なんかすごく緊張するね～」
「あー……そうだね。私も緊張した」

　そう言ってはつなが笑うと、わずかに茉莉の口角が和らいだ気がした。瞳の色も柔らかみを帯びたように思える。

　その後、ふたりで花を拾い集めていると、せっかくなのでと花を使っての撮影を行うことになった。
　花と宝石に埋もれて寝そべってみたり、集めた花をばらまいてみたり。
　茉莉はその花を『美しい』と感じ、はつなとの撮影を『楽しい』と感じたのだろうか。時折、瞳の奥がキラリと輝いているように、はつなには見えた。
　それもこれもすべて、はつなの気のせいかもしれない。
　けれど撮影が始まる前よりは、たしかに二人の距離は縮まっていた。

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