春のパンケーキ祭り｜リアクション

春のパンケーキ祭り

　武道が皿をサーブする。
　今度は彼が提案した、生地にリコッタチーズとココアを混ぜ込んだパンケーキで、たっぷりのオレンジシロップが掛かっていた。
「オランジュショコラみたいなイメージかな。添えてあるクロ……？」「クロテッドクリーム」レナートが補佐する。
「そのクロテッドクリームと一緒にドウゾ！」
　皿からは美味しそうな香りがしてくるが、拓郎は暫く疑い深く見つめていた。フォークを差し込んで裏側も見て、水樹が「うーん！」と喜びで喉を鳴らすのを聞いて、漸く口に運んでみる。
「……自分は……、もっと甘い方が、好き」
「チョコチップ入れた生地の方がよかったかな？」
　武道は後頭部をかくが、エリセイとレナートは「あれは見た目が悪い」と声を揃えて否定した。
「そうねえ。生地に混ぜ込むなら、私は砕いたクッキーをドライフルーツが良いな」
　桜が言うと、誉が「俺なら紅茶だな」と続く。
「フレーバーティーの茶葉をパンケーキに練り込むと、紅茶の香りが楽しめて、美味いんだ。
　紅茶シロップを掛ければ、まさに紅茶尽くしで、紅茶好きには堪らないと思う」
「紅茶はなんとなく想像つくな。
　変わった組み合わせは化学反応的に美味しいのも有りそうだけど、普通の組み合わせだとお客様もオーダーし易いかも？」
　英二と桜と誉が盛り上がるのを一瞥して、武道はまた新しく提案してみる。
「ほら、ホワイトデーって大体男性からのお返しで女の子へ、が多いけど……逆もいるだろうし。
　どっちにしろ、一緒に男性も食べにくるよね？　甘いの苦手な子でも頼みやすいのがあればいいんじゃないかなーって思ってね。
　生地の色を白の普通にして、チョコソースかけにした方がよかったかな？」
「そぎ切りしたチョコレートを散らしてもいいかも」と桜が言う。
「さらに鬼のようにたっぷりとクリームを乗っけて……って、それって自分が今食べたいと思ったやつで……。随分とそっけないけど」
「俺も純粋に、俺が食べたいの考えてみた！」
　武道が笑いながら同意した。

　そんな会話が途切れたところで、拓郎は少し迷ったように視線を泳がせたが、意を決したように口を開いた。
　甘いものが好きだからこそ、公平な意見を述べたいのだ。
「……だけど、多分悪くない」
「私も好きよ！」
　すっかり平らげた水樹は、腹が満たされてにっこりしている。
「リコッタチーズなら、ちょっと前に食べた生クリームとミックスベリーのソースを添えたものがおいしかったな」
「結構食べるんですか？」武道に水樹は「ええ」と答える。
「他にはスフレパンケーキとか。
　変ったものとしては、パンケーキの間にこしあんをはさんだ、パンケーキなのかどら焼きなのかよくわからないのも食べたことがあった。味はおいしかったけど」
　水樹はヒューの方へ首を回した。
「ヒューは？　京都ってパンケーキの宝庫だったりするのよね？」
「そうだな」とヒューは頷いた。
「抹茶を混ぜたメレンゲを焼いて、そこにこしあんと黒糖バターがトッピングが美味しかったな。
　黒蜜が別添えなので、それをかけながら食べる。とろける黒糖バターと上品な甘さのこし餡も、抹茶の風味豊かなパンケーキと相性抜群。
　ちなみにこのパンケーキはナイフとフォークではなく、箸で食べる。飲み物は抹茶豆乳がお勧めだった。　
　それより水樹——」
　先程から水樹は出されたものを残さず食べている。美味しいものを食べて幸せそうな彼女の顔を見るとヒューも幸せだが、彼女の仕事に脂肪分いっぱいのクリームや砂糖は響かないのだろうか。
　口を噤みながらも、表情で訴えてしまっているヒューに、水樹はあっけらかんと笑って見せた。
「ああ、カロリー？　明日はちょうどエクササイズの日だから、それで落とし前つけるわ！」

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