マリンパラダイスの黄金週間｜リアクション

マリンパラダイスの黄金週間

【お一人様にも色々あって】

水族館に来るのは、ナイトアクアリウム以来。
昼の生き物も見てみたい。
逆巻天野は、そう思ったことを後悔した。
（人が……多すぎる）
進めば進むほど、人ごみに圧倒されて気分がどんどん悪くなっていく。
人酔いとは、こういう事を言うのだろうか。
肝心の生き物も、人ごみでよく見えない
人ごみをかきわけて前に出ればいいのだろうが、天野はそういうタイプではないし、そういうタイプだとしても人酔いしている今、そんな元気は無い。
（頭が……くらくらする。それに、）
怖い。
人が、怖い。
集団が苦手になったのはいつからだったかと、くらくらする頭で思い返す。
中学か、それより前の幼児期か……。
高校に来てから、これでもだいぶ人嫌いな性分が治ったつもりではいた。
実際、友達も出来た。
だが、それでも。
（怖いものは、怖いから）
一度心に住み着いてしまった恐怖心は、そう簡単に消えてなくなってはくれないのだ。
「……」
フードかぶり髪を下ろし、素顔を隠す。
伊達眼鏡をかけ、ヘッドホンの音量を最大にまで上げる。
人と世界を、拒絶する様に。
他人も知人も、全て避ける様に。
とはいえ、人酔いがそれで治るわけでもない。
（人の少ない場所で休もう……）

「歩き疲れたし、ちょっと休むのだ」
ふらりと休憩所に立ち寄った後木真央。
休憩所にはフードを被った人物が一人居るだけで、それ以外の人影は全くない。
（全然人が居ないのだ。皆元気なのだー）
何か飲み物をと自販機に向かう途中、フードの人物の前を通り過ぎる。
その顔になんだか見覚えがあり、真央は思わず立ち止まった。
「そこのフードの人、もしかして天野ちゃんなのだ？」
気付かれるとは思っていなかったのだろう、フードの人物こと天野は少しだけ意外そうに、しかしそれ以上に億劫そうな様子で真央を見上げた。
（……まあ、一人くらいならいいか）
「……やあ、後木」
「やっぱり天野ちゃんだったのだー」
人酔いがまだなおりきっていない天野と、ちょっと歩き疲れただけの真央。
両者のテンション、そして元気の差は一目瞭然だった。
「あ、天野ちゃんどっか身体調子悪いのだ？」
「……ちょっと人酔いしてね。君は人ごみが平気なのかい？」
「真央ちゃんは人ごみ平気なのだ。でもカップル多くて、一人は浮きまくりなのがちょっとつらいのだ」
くすりと笑うくらいするところな気もするが、今の天野にそんな気は起きなかった。
それどころか、これだけの会話ですらも億劫で。
「そう。……ごめん、少し静かにしてもらえるかな。飲み物おごるから」
そう言って、天野は自販機の前に立つ。
「わ、わかったのだ。ありがとうなのだ」
人酔いしたと言っていたし、ここは静かにおごられておくのがよさそうだ。
（天野ちゃん、何だか難しいのだー。きっと頭脳派は大変なのだ……）

（思ってたより、人が少ないな……）
アシカショーの屋外水槽前、桐生計都は想像より人がまばらなそこで立ち止まる。
そういえばペンギンふれあいコーナーが大混雑だったし、そちらにかなり多くの人が流れているのかもしれない。
端の方なら、迷惑にならずに写真が撮れそうだ。
「……少しくらい、いいかな」
とはいえ前の方に陣取る気になれないので、後ろかつ端の方に立って斜めから写真を撮る。
鼻にボールを乗せた瞬間など、シャッターチャンスは逃さない。
「よく撮れてたらいいな……」
現像は、帰ってから自分で行うのが彼の主義。だから、写真の出来はできてからのお楽しみだ。
（そろそろ他へ行こうかな……）
適当に回っていた人たちが集まってきたのか、観客が徐々に増えてきた。
迷惑にならないうちに移動しようと向き直ったその時、計都はすぐ近くに居た一人の少女に気付いてかなり驚いてしまった。
「すまない、丁度この辺りからだと見やすかったものでね」
旅鴉月詠が、鉛筆を走らせる手を止めて詫びの言葉を口にする。
計都が撮影に集中していることもあり、声をかけづらかったのだという。
「こっちこそ……大げさに驚いてしまって、ごめんなさい。……それじゃあ」
月詠に背を向け、その場を後にする計都。
（そういえば、あの人同じ学校の人だ）
他にも、市橋をはじめ何人か同じ学校の生徒を見た気がする。
複数で来ている人も、結構居たはずだ。
（ぼくもいつか、一緒に出かけられたらいいな……）

このページにイラストを設定する

マリンパラダイスの黄金週間

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧