The NEKOJIMA M@STER｜リアクション

The NEKOJIMA M@STER

【アイドルの休日（ＴＶ企画編）】

　さて、その頃。先の雑誌企画と同じような趣旨のＴＶの企画の撮影を行うアイドルがいた。
　ぬいぐるみ☆アイドル、遠野まほろである。
「えーと……今日は、Ｎステのアイドルの素顔特集……ということでしたよね？」
「うん。だから、今日は肩の力を抜いて、素のまほろちゃんの姿を見せてあげてほしいんだ」

「はあ……。えっと……じゃあ……頑張ります」
　熱弁を振るうプロデューサーに、まほろはのんびりとした表情で頷いた。
　撮影は、複数回にわたって行われた。
　今日は、スタジオでのインタビューがメインだ。
「えっと、ぬいぐるみ☆アイドルの遠野まほろです。ぬいぐるみがだいすきです」
　普通の人が言うと、『そのまんまやないかい！』と突っ込まれそうな台詞もまほろが言うとサマになった。
　これこそがぬいぐるみ☆アイドルのアイドル力である、と妙に力の入ったテロップが入るが、撮影されている本人は知る由もない。
「じつはＰＶとかに出てくるぬいぐるみさんは私の手作りなんですよ」
　まほろがどこからともなく取り出したぬいぐるみをカメラに見せながら言うと、『ここでＰＶが流れまーす』とスタッフがボードで状況を説明してくれる。
「すごい。まほろちゃん、器用なんだね。たまに色々な仕掛けがついたぬいぐるみもＰＶに出てくるけど、あれもまほろちゃんが？」
　司会者が訊ねると、またスタッフがボードで『ここで「ぬいぐるみ少女☆まほろん」のＯＰ曲のＰＶ入ります』とボードを出す。
『ぬいぐるみ少女☆まほろん』は現在ネコジマで劇場版が公開中のまほろが主題歌とヒロインの声優を務めるアニメである。
　可愛らしい絵柄と、キャラが容赦なく死んでいくストーリーで話題になったまほろの出世作とも言える作品でもある。
「えっと……あれは、スタッフさんが同じものを用意して、そちらにギミックを施してくださっています。せっかくつくったぬいぐるみに手を加えるのは悪いというプロデューサーさんの意向で……」
「へぇー。それは細やかな気配りですね」
「はい。プロデューサーさんには本当にお世話になっています」
　まほろがにこやかに笑って頷く。
「ですから、今までＰＶに登場した子たちはちゃんとうちにいるんです。もちろん、まほろんの『にゃんべえ』も」
「へえ。それは是非見てみたいですねー（ﾁﾗ」
「はい。そういう声も多く頂いて、今回、うちの子達の写真集と作り方を書いた本を出させて頂くことになりました。えへへ、販促しちゃいました」
　余談だが、そのときの照れたように笑うまほろの笑顔効果で、写真集とマニュアルの売り上げは相当なレベルに到達し、第二弾の発売も検討されているという。
「本を読んで、自分だけのぬいぐるみさんを作ってくれたら嬉しいです」
　実際、発売後はＳＮＳなどに多数のファンお手製ぬいぐるみが並ぶことになるが、それはまた別のお話。
　そして、番組の最後で、
「あ、それでプロデューサーさんには内緒にしていたんですけど、今回、プロデューサーさんにぬいぐるみを作ってきたんです」
「……え？　僕に？」
　驚いた顔のプロデューサーに、まほろは可愛らしいぬいぐるみを手渡した。
「……ありがとう。大事にするよ」
「喜んでもらえたみたいでよかったです。これからもまほろはぬいぐるみさんと一緒に頑張っていきます。世界征服だってしちゃいますよ」
　よろしくお願いしますね、とまほろが微笑したところで、撮影は終わった。

「……あ……終わりですか？　お疲れ様です……」

　ぺこり、と頭を下げたときには、まほろはアイドルではなく普通の少女に戻っていた。
　あるいは、これこそが、ぬいぐるみ少女☆まほろの本当の素の姿なのかもしれない。

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