The NEKOJIMA M@STER｜リアクション

The NEKOJIMA M@STER

【アイドルの休日（雑誌特集編）】

　未明せれね（本名：夢宮瑠奈）はアイドルである。
　これはそんなせれねこと瑠奈に持ち込まれたとある仕事のお話。
「ある雑誌企画が来ててね」
　と、瑠奈の担当プロデューサーである遠藤ミオは言った。
「……雑誌の企画、ですかぁ？　『アイドルの休日』？」
　企画の概要がまとめられたＡ４のプリントアウトに目を落しつつ、瑠奈がのんびりとした口調で小首をかしげる。
「そう。テレビやネットといった映像媒体の仕事もいいけれど、やはり紙媒体の仕事も重要だと思うんだよね！」
　ミオは熱意のある声で、瑠奈に仕事の内容について様々な補足説明を加える。
　要するに、今、波に乗っているアイドルの休日に密着し、色々なスポットをまわるという趣旨の企画らしい。
　何故か、デートっぽい雰囲気になっているのは、アイドルとの疑似恋愛を体験させようという意図もあるのかもしれない。
　ちなみにそのデートの相手役はプロデューサーとのこと。
「うーん、どうしようかなぁ」
　と瑠奈は悩んだ。
　雑誌の取材自体はやぶさかではなかった。ただやはりデートっぽい企画なのが、ちょっと気になりもするのだった。アイドルはイメージが大事な人気商売でもあるわけだし。
（そもそも、どうして相手役がプロデューサさんなのかが謎ですけど。まあ、プロデューサーさんならいいかな。仕事熱心ですし。あと、そこそこイケメンだし）
　と、そこまで考えてから瑠奈は決意を固める。
「では、プロデューサーさんがそこまで仰るのでしたら」
　と、瑠奈はその仕事をやることをミオに伝えた。
「ありがとう、せれねちゃん！」
　と、ミオはがっつり握手をしてきた。
　というわけで、企画は進行する――。

　　　* * *

　そして、撮影当日。
「え！？　せれねちゃん。今日のデートコースまで考えてきてくれたの？」
　遠藤ミオは、瑠奈が提案したデート企画のコースの詳細さにひどく驚いた様子だった。
「だって、せっかくのデート企画なんだから楽しくしたいじゃないですかぁ」
　と、瑠奈がのんびり笑って言う。
　すると、パシャパシャとシャッターが切られる音がして、「せれねちゃん、今の表情いいね！」と歓声が上がる。
（むう。なんだか雰囲気が台無しです……）
　と、瑠奈は内心で少しむくれる。
　これが仕事だから仕方がないとはいえ、アイドルも楽ではない。
「それじゃあ行こうかって、これ全部洋服屋さんじゃない？」
「そうですよ？　別に問題ないよね」
　小悪魔的な微笑で返事をし、一時間ぐらいかけて「これ似合う？」、「こっちはどうですか？」と服を選ぶ。
「ちょ、ちょっと、そんなに買ったら予算が足りなくなっちゃうよ？」
「えー？　プロデューサーさんからのプレゼントってことにならないんですかぁ？」
　そんなことを言い合いながら、瑠奈はあちこちにプロデューサーを引っ張りまわした。
　ＣＤショップにも寄った。いまやＤＬ音源が主流のネコジマだが、あえてＣＤ店で視聴をするのが瑠奈の趣味だ。
　ついついそこでも時間を使い、予定時間をやや超過しつつ、なんとか撮影と取材を終える。
　そして、最後の帰り際に。
「はい、プロデューサーさん」
　と、瑠奈はミオにこっそり買っていたイルカのキーホルダーを手渡した。
　ほんの感謝の気持ちで、企画とは全然関係のないプレゼントのつもりだった。
　だが、
「それだ！　何か足りないと思ってたんだよ！　これを大量に購入して、せれねちゃんからアナタへのプレゼントという企画で締めよう！」
「……あ、あはは。い、いいんじゃないかなぁ」
　思わず瑠奈は苦笑するしかない。

（もう……仕事に対してホント真面目なんだから）

　それは、仕事としてのオフではあったものの、未明せれねとしてではなく、夢宮瑠奈として久しぶりに充実した一日であった。