The NEKOJIMA M@STER｜リアクション

The NEKOJIMA M@STER

【はぐれ保安官ＢＬ派？】

　マルチタレント、という言葉がある。
　複数の才能とでも言うべきもので、芸能人なのに絵がプロ並だったり、小説が書けたり、そういう類のタレントを指す和製英語だ。
　そして、響タルトもまたそんなマルチタレントの一人だった。
　彼女は、アイドルだがイラストも描けた。が、その内容は――往々にして腐っていた。
　それゆえに――。

　　　* * *

　とある西部劇風映画の撮影初日。
「え？　今度の映画、原案――にゃんこたんなの？」
　メインキャストの一人としてやってきた男性アイドルの鎌八まもるはスタッフから聞かされた衝撃の事実に頬に一筋の汗を垂らした。
「そうですよー。そして、ＢＧＭにはお二人の楽曲をじゃんじゃん使っていく感じなんですって」
　スタッフの女性（ポニテ）がキラキラした瞳でそう語るので、ポニテを愛するまもるとしては邪険に扱うことはできない。
「そ、そっかー。それは楽しみだなー。うん、俺も頑張るから期待しててね（ｳｲﾝｸ」
　パチンと片目を閉じて、アイドルらしい微笑を浮かべつつ、内心では不安で脂汗がダラダラだ。
（にゃんこたんが原案ってことはまさかのＢＬ……？　いや、でも確かプロデューサーはそんなことは一言も……）
　まもるが聞いた筋書は、主人公が相棒の謎の男とともに、ヒロインを無理やり結婚させようとする悪い金持ちと戦うロマンスものという話だったのだが。
　と、そのとき、どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい、ムッシュくーん」
「……ん？　その声は、にゃんこたん？」
　様々な人の声が聞こえてる撮影現場で、まもるは見事ににゃんこたんことタルトの声を聞き分けてみせた。
　全てはポニーテールへの愛ゆえに、である。
　しかし、
「あれ？　にゃんこたん？　どこだい？」
　待てど暮らせどタルトは姿を現さない。
　あの美しい黒いポニーテールが見えてこない。
　目の前にいるのは、ウエスタンな帽子を目深に被った小柄な俳優だけ。
「にゃんこたん、照れてるのかな？　ほら、隠れてないで出ておいて（ｳｲﾝｸ」
「いや、隠れてないっていうか、目の前にいるよー」
「え？」
　そこで、まもるは気がついた。
　目の前にいる帽子を被った俳優が、じつは男装したタルトだったということに。
「うわー、そうか。脚本にあった謎の男って男装したヒロインで、それがにゃんこたんだったのかー」
「うん、そうだよ。そしたら、見た目はＢＬになるでしょ？　やっぱり時代はＢＬだよね～♪」
「……なるほど。考えたねぇ。それにしても、にゃんこたん良く似合ってるよ。むしろ俺よりカッコいいんじゃない？」
「ふふふ、ありがと。ムッシュくんもよく似合ってるよ♪」
　二人は互いの衣装の映え具合を称えあったが、その言葉に嘘はなかった。
　と、そのとき、
「はーい。それじゃあ諸々の事情でいきなり屋根の上での銃撃のシーンからはじめまーす」
　スタッフの声が聞こえてきて、まもるとタルトは撮影に臨むことになった。
「ふふ。ムッシュくんが僕を男だと思ったまま惹かれていくんだよねｗ　男装の時はＢＬっぽさが出るといいなー☆」
　カメラの前へ向かう道すがら、タルトが期待をこめた瞳でまもるを見やる。
「オーケー。ＢＬっぽさは約束できないが、ポニテへの愛の強さは保証するよ。たとえそれが男装の麗人が相手でもね」
　パチンとウインクで返し、まもるはタルトとともにモデルガンのグリップを握った――。