冬の寝子島｜リアクション

冬の寝子島

　黄色いコートに白いズボンを穿いてトワ・E・ライトフェロゥが寝子ヶ浜海岸に戻ってきた。持参した細長い容器の中の液体が透けて見える。防風林の下の雪に二本を差し込んだ。
「sweet milk sherbetができるまでwaitデスケド」
　完成品の二本を横に並べて埋めた。
　最後に背負っていた木製のソリを斜面の頂きに下ろした。前の部分を目にして少し考え込む。
「ひとりよーりもー、ふたりでenjoyデス」
　完成した一本を引き抜いて空に掲げる。思いっきりの笑顔で叫んだ。
「come on メリー！」
「来たの」
　桃色のダウンジャケットを着た女の子が忽然と現れた。手には銀色のスプーンを持っている。
「メリー、あげるマス」
「ありがとなの」
　容器の蓋を開けてシャリシャリと音をさせて食べていく。その手が中程まで掘り進めて止まった。
「あたしが食べ物に釣られたと思っているの？」
「思ってないデス。スイカ、sherbetで来るなんて、ないデスヨ、タブンデス」
　いつも以上の片言の言葉で笑って見せる。メリーの黒い目が闇に浸食されて、即座に元に戻った。
　シャリシャリとシャーベットを食べて、ごちそうさまなの、と手を合わせた。
「メリー、ソリに乗るデス！」
「ソリってこれなの」
「ski がっしゅくに、ソリ無かったデス。サンタのReindeerが、ひっぱらないデスケドＧＯデス！」
　トワの勢いに乗せられる形で女の子はこくりと頭を下げた。
「乗ってもいいの」
「うんてーんは、トワに任せるデスヨ。あの世までブッとばしマス」
「その時がきたら、あたしは途中下車するの」
　二人は仲よくソリに乗った。両足を使って前に進む。
「ＧＯデスヨ！」
　両足の力は必要なくなった。ソリは自発的に斜面を滑った。巻き起こる風が二人の髪を激しく揺らす。
　トワは歌うような節回しで叫んだ。
「snow valleyをー滑ってー、mountainを登りー、cliffをflyしてー、波にのりついでー、海ーデスヨー」
「ソリは舟ではないの」
　女の子は冷静に返した。
　二人の思いを乗せてソリは滑った。途中で勢いが落ちたものの、最後の海への下りで無事に辿り着いた。打ち寄せる波が靴を少し濡らす。
　その位置でソリは完全に止まった。
「止まってしまったの」
　女の子の言葉を受けてトワは勢いよく立ち上がる。唐突に音程が怪しい歌を熱唱した。歌詞にある一節、羅針盤やポケットのコインを強調して、最後にウイーアーと叫んだ。
　女の子は立ち上がって無表情で小首を傾げた。トワは笑顔で振り返る。
「メリーからプレゼントのバッジで元気maxデス！」
「その元気は別のことに使った方が建設的なの」
「海やめてー、ビルたてるマス？」
　女の子は足元の雪を掬って手で丸めた。口の端に微かな笑みを見せて海に向かって投げ込んだ。
　トワは飛んでいく雪玉に、ＧＯデス、と笑顔で声を送った。

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