スクール水着は世界を救う｜リアクション

スクール水着は世界を救う

【10】

　今日も一日、フツウの日だったな……。
　そんなことを思いながら、夕暮れの自転車置き場で、なぎさは自転車の鍵を外している。
　うーん、フツウ。フツウ……だったはず。そうだよね、と首をかしげる。
「思い返すと、何か変だったような気も……よくわかんないな。まあ、帰ろっか」
「バカタコー」
「うん、今日の晩ごはんは何にしようかなー……ん？」
　ふと、こちらを見て立っているふたつの影に目を細めた。
「帰るのちょっと待った先輩！」
　そう言って、立ちはだかるのはユウと萌。
「あんたのそのタコ、取るの手伝ってやるよ。ほら、こっちに……」
「？　なんの話？」
「え？　なんの話って、だからそのスク水状態をどーにかしてやるって言ってんの！」
「？？？」
　またしても何を言ってるのかわからない。
　だが、ひとつだけわかるのは、このタコをふたりは狙っているということだ。
「いいからそのタコちょーだい！」
　飛びかかる萌をひらりとかわすなぎさ。
　すかさずユウが迫ってくるのを見逃さず、バカタコの頭をちょこんとプッシュ。
　ビュービューと吹き出した墨がユウの顔面を直撃する。
「うわあ！　何すんだよ！」
「この子をいじめようとするからだよ。いったいどういうつもりなの？」
「どうって、おかしなことになってんのに気づいてねーのかよ、あんた！」
「？　別にフツウだよね？」
　バカタコに話しかける。
「バカタコー」
「ほら、フツウだって？」
「フツウの奴の肩にタコなんていないっつーの！」

　＊＊＊

「ちょっと何してるの！」
　自転車置き場の騒ぎを聞きつけ、やってきたのはちょうど部活上がりの碧南だった。
　部活後のシャワーを浴びてサッパリして。
　ゲームショップへ今月発売の乙女ゲーのパンフをもらいに行こうと思っていた矢先。
　なんだか面倒くさそうな事態に遭遇してしまった。
　せっかく今日は何事もなく平和に終わろうとしていたのに……。
「それにしても、この状況……」
　いたいけな？　スク水の少女？　をふたりで囲んで？
　日頃の鬱憤を晴らしてやろう的な？　何かそういう？　それ？
　なんだかこういうの学園モノのゲームでよく見る。
「もしかして学園生活にはびこる闇、イジメ……！？」
「そ、そんなことしてないよー！」
　大変なものを見てしまったと、強張る彼女に思わず萌は叫んだ。
　誤解である。彼女の目的はただひとつ……。
「！　今だ、鬼河内！　そいつのタコをやれ！」
　ユウの言葉にはっとする萌。
　猫のように飛びかかると、隠し持っていた竹串（From家庭科室）で碧南のバカタコをプスリ。
　怯んで足の力が弱まったタコを引ったくると風のように走っていってしまった。
　当の碧南は何が起こったのかもわからず、目をパチクリさせた。
「なにあのタコ？　どこから出てきたの……？」
　どうやら碧南は自分にタコが付いていたことにも気づいていなかったようだ。
　みるみる小さくなる萌の影を見送りながら、立ち尽くしていた。
「……あれ？」
　なぎさはきょろきょろと辺りを見回した。
「いなくなってる……？　どこに行ったんだろう？」
「バカタコ〜？」
　なぎさはタコと顔を見合わせて、首をかしげる。
　萌に気を取られている間に、ユウは忽然と姿を消していた。

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