●旧市街エリア・決着（２）●


【旧市街：寝子島映画村上空】

　圭花＆八神、大観覧車の完全解体に成功──三羽烏のハッチ、その主武器を喪失。


『フハハハハ！　流石だ！　やりおるな、人間どもよッ！』
　けれども、ハッチ自身とその引力ろっこんの脅威は、依然健在。目の前で観覧車が崩壊していくさまを、まざまざと見せ付けられたハチドリが、それでもなお偉そうな笑みを浮かべて、
『この我をここまで追い詰めるとは……流石この我輩、
　三羽烏最弱の小者だけのことはある。さすが我輩！　すごい！』
「って、ウルセーーーーーー！？」
『ヘブウッ！？』
　いちいち調子の狂う敵に、ようやく加減なしのグーパンチを入れ、「よっしゃ！」と浅沼 柳司は気分爽快。けれども、ハッチの墜落した方角を見た山田 勘三郎が、たちまち青い顔になる。
『カー……（お、おい浅沼、あれ……）』
「何や、どないしたん……って、映画村が浮いとるーーー！？」
　正確には、映画村のオープンセットだ。江戸の街並みを再現した、撮影用の建物やら忍者屋敷やらが丸ごと空に浮き、そいつがドカドカ頭上から降ってくる攻撃に、こりゃ堪らんとひとまず避難する２人。



【旧市街：杜の湯跡地】

　映画村のセット攻撃は、杜の湯跡地にいた もれいび達にも及び、さっき目立っていたエヴァ・ブランシェが真っ先に攻撃の標的になった。
『ククク……この我の尻を、こっぴどく叩いてくれたあの感触……
　このハッチ！　忘れはせん！　忘れはせんぞォ！（ハアハア）』
「って、ちょ、しつこいわね」
　雨アラレと空から降ってくるオープンセットに、地上のエヴァは逃げ回る一方。１つや２つならろっこんで吹き飛ばせるけど、いかんせん数が多過ぎだ。するとそこに、「こっち、こっちだ！」と声がした。見ればさっきエヴァを助けてくれた楢木 春彦が近くで、彼女を手招きしている。
「ふぅ、また助けられたわね。楢木さん、何度もありがと」
　エヴァが滑り込んだのは、楢木が作った即席の防空壕だった。能力で作った２畳ほどの空気の足場を頭上に展開し、その足場をさらに進化能力で柔らかくして、降ってくる木材やら小道具やらを跳ね返しているのだ。
　そして、その足場の防空壕には先客がいた。渥美 ニナと、雨崎 荒太郎の２人である。
「いやはや、しかしあのハチドリ、無茶苦茶してくれますねー」
「参道商店街に寝子島駅、杜の湯に、今度は映画村まで……
　ぎゃーす！　ひどいー」
　今回のハッチの襲撃による被害を、指折り数えていた雨崎がまた悲鳴を上げる。どこも彼には馴染み深い、思い出のある場所ばかりだ。今度また思い出の場所が破壊されたら、自分は死んじゃうかも。
「杜の湯……？」
　けれども、その話を聞いていたニナが、ふと思案げな顔をした。じたじたしている雨崎を手招きして、防空壕の外を指し示す。
「雨崎さん、あれ、使えませんかね？」
　ニナが指差したのは、ごろんとまだ市街地に転がったままの杜の湯の煙突だった。そう、エヴァがカッコいい登場に使って、あえなく観覧車に破壊された、あの煙突だ。ニナが続ける。
「あのしつこいハチドリと、ここらで決着を付けましょう。
　敵が何でも浮かせて武器にしてくるなら、こちらはそれを利用してやるんです」


「雨崎さんと２人で走りますので！
　楢木さんとエヴァさんは、援護お願いしますね！」
　その合図とともに、ニナと雨崎が勢い良く防空壕から飛び出した。安全な場所を捨てて、のこのこと外に出てきた２人に、ハッチがすぐさまオープンセットの雨をドッカンドッカン降らせる。
「まったく、今日は忙しいわね……【タービュランス】！」
　２人の進路上に落ちる最小限の障害物を、エヴァがろっこんで吹き飛ばし、間に合わない物は楢木が柔らかい足場を出して跳ね返す。けれども、邪魔が入ったのを見て取ったハッチが、すかさず大物を繰り出してきた。
「Σ ぎゃーす！　こんどは寝子電とんできたー？」
　線路上に放置されていたねこでん２車輌を、引力ろっこんで持ち上げ、そのまま腹に抱えてこちらに突っ込んでくるハチドリの姿に、雨崎が悲鳴を上げてその場で棒立ちになる。ああ、思い出深いねこでんが、またしても敵の武器に……


　　激突、ねこでんミサイルＶＳ雨崎 荒太郎


『ワハハハハ！　どうだ驚いたか下等な人間どもヘプウッ！？』
「そーはいかねぇぜっ！」
　高笑いで空から突っ込んできたハッチが、いきなり見えない何かにぶち当たって、そのまま錐揉み墜落。楢木がハッチの進路上に、咄嗟に足場を生成して妨害したのだ。
　ハッチの引力ろっこん解除。けれど能力の効果が切れても、慣性が付いてしまったねこでんは、そのままの勢いで地上の雨崎めがけて急降下する。
「って、ヤベェ！？　雨崎よけろ！」
「わああああああっ、ええと、ええと……あっ、あれだ！」
　周囲を見回した雨崎の視界に、無人のゴンドラが目に入る。圭花か八神が、観覧車から能力で剥がしたうちの１つだ。ふんぬぐっ！と雨崎は念力ろっこんでそのゴンドラを宙に持ち上げ、ねこでんミサイルの前に出す。
「えー、電車は急停車することが、ございますっ」
　ドガアーーーーーーーーーーンン！！
　ゴンドラと正面衝突した車輌がひしゃげて地上に墜落。
『ぬう？　奴はどこへ行った？』
　そのスクラップの破片に紛れて、雨崎の姿を見失ってしまったハッチが、腹立ち紛れに楢木とエヴァの方を振り向く。
『貴様ら、さっきはよくも邪魔を……』
　防空壕の中で身を固くする２人。不安げに楢木とエヴァが、ちらりと見てしまったその視線の先にある物を、ハッチは見逃さなかった。あれは、折れた銭湯の煙突だ。
『ククク……そうだな！　この煙突を上から落としてやれば、
　貴様らのそのチンケな隠れ家など、ひとたまりもあるまい！
　ワハハハハハハハハハハハ！　ワハハハハハハハハハハハ！』
　ぴゅう、とすぐさまその煙突の上まで飛んで、高速のホバリングでそれを浮上させようとするハッチ、
　けれども……何も、起こらない。
『！？　何故だ、なぜ浮かぬゥ？』
　浮上しないことに戸惑い、羽ばたきの速度をさらに強めながら、その煙突に近付いたハッチが見たものは。折れた煙突の根元で、にやりと笑みを浮かべている、渥美 ニナの姿だ。


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「おやおや、煙突が浮かないですって？　そうでしょうね！　私が接着しておきましたから」


　ろっこん【錠前師の束縛】による、煙突と地面の接着。
　そしてこのニナの能力は、彼女のたったひと言で解除が出来る。「かちゃり」。
　ゴッッ
『なっ、何いいいいいいいいいいい！？』
　浮力が蓄積しきっていた煙突が、急に接着を解かれた反動で急浮上し、ハッチめがけて突っ込んでいく！
　煙突ミサイル。ニナの狙いはこれだった。敵が能力で物を浮かせて利用するなら、こちらはそれを逆手に取る。そう、楢木とエヴァの視線による誘導も、全てはこの１手のため。
『ぬぬぬ、なっ、なにくそぉ！』
　ハッチが自爆を避けようと、咄嗟にその羽ばたきを止めて能力を遮断し、すんでの所で煙突が止ま……
　止ま、らなかった。
『なっ、何だとううううううううう！？』
「次は杜の湯の煙突、杜の湯の煙突でございまーす！」
　すぐ近くから聞こえてくる謎の声、その煙突ミサイルの直撃をもろに喰らって、「ゲポアアア！？」と直上に吹っ飛んでいくハチドリ、その下で今度こそ浮力を失い落下していく煙突。
『フフ、ハハハハハ！　だが、まだ！　まだだァ！　このドＭのハッチ！
　クローネ様の厳しい調教で鍛え上げた、頑丈さでまだ耐えてみせ……』
「うるせーハッチ、ここがおまえさんの終点だ！」

　その煙突の穴から、雨崎 荒太郎が続いて飛び出した。






激突、ハチドリのハッチＶＳ煙突ミサイル＋雨崎 荒太郎



　煙突の穴から飛び出した、その雨崎の姿を見てハッチが叫ぶ、
『ばっ、馬鹿なああああああああっ！？』
　多段ミサイル。そう、さっき後ひと押しの力を加えて、煙突をハッチにぶち当てたのも、この雨崎の念力の仕業だった。回避されることも織り込み済みで、雨崎は煙突の中にずっと潜んでいたのだ。
　そして上空を行くハッチに同じ軌道で追い付いた雨崎が、
「これで、終わりだ！」
　空中で駄目押しの体当たりをぶちかまして、ぴゅるるる……と今度こそハッチが墜落。
　ドガアン！　地面に激突してぴくぴく痙攣しているハチドリの傍に、やがて雨崎が降り立ち、ふんすっとその鼻息も荒く言う。
「ハッチ、狩られるほうの気分はどうだい？
　ぼくの大事な場所を滅茶苦茶にしたお仕置きだよっ」
『クク……これは……これ、で……（ガクッ）』


　旧市街・杜の湯跡地にてニナ＆雨崎──三羽烏の１羽、ハチドリのハッチを撃破！