【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！｜リアクション

【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！

　キャットロードに向かって並んで歩くのは、呉井陽太と白草朱乃だ。前に会った時、チョコレートを渡すと伝えたのだからと、勇気を出して朱乃からメールを送った。何回も考えた文章、送信ボタンを押す手も震えるほどだったけれど、朱乃のチョコが欲しいと言ってくれた彼はいつもの調子で返事をくれた。
　コートから覗く大きめのセーラー襟の付いたマリンドレスは裾に太目のボーダーと細目のボーダーが入ったシンプルだけど女の子らしく、指先も行き付けのネイルサロンで整えてもらったし、ちらりと覗く手首には新緑と青いアパタイトの付いた水晶の腕輪。サイドテールに結んだ髪もほんの少しだけ大人っぽくて朱乃の気合が見て窺えるほどだ。
「今日はお祭みたいに賑やかだねぃ」
　街中の至るところに飾り付けられたバレンタインデコレーションを眺めて陽太が笑う。バレンタインを全力で楽しんでいこうという寝子島の姿勢は嫌いじゃない、寧ろちょっとしたお祭みたいで胸が騒ぐ。
「そうですね、お祭みたいで……楽しいですね」
　女の子にとっては年に１度の大イベントなのだから、お祭と言っても過言ではないかもしれないと朱乃も微笑んで頷いた。
「あ、呉井先輩こっちです」
「んー？　どれどれー」
　朱乃が指さしたのは雑貨店で、ラッピングイベントをやっているのだという。
「へー、ラッピング……ちょっと面白そうだなぁ」
　行こう行こう、と乗り気な陽太を見て朱乃は鞄の中の手作りボンボンショコラに視線を移す。心を籠めて作ったチョコレートは自分で言うのもなんだけれど、見た目も綺麗に出来ていて美味しそうに見える。これをラッピングするのがここへ来た朱乃の目的だ。
　いらっしゃいませー、という店員の明るい声に促されて中へ入れば様々なラッピング用品が並んでいて、どれにしようか目移りしてしまう程。
「いっぱいあって、迷っちゃいますね……」

「ほんとだねぃ、オレもやってみよっかなー」

　どれにしようか探しながら、朱乃が棚の前で悩んでいる隙に陽太がこっそりと店員のお姉さんに話し掛ける。
「すいません、チョコ以外のラッピングも大丈夫ですか？」
「はい、どんなものでも大丈夫ですよー」
　手作りのココアクッキーも持ってきているのだが、他にも贈りたい物がある陽太はその返事を聞くと、ありがとうございますと言ってラッピング用品をどうしようかと悩むのだった。
　なんとか決めてレジヘ向かう頃には、朱乃の方が先に椅子に座ってラッピングを始めていた。中身が見える白いフリルの付いた薄緑色のボックスの仕切りににボンボンショコラを１つずつ丁寧に詰めて、リボンを何色にしようかと悩んでいる。
「選ぶのに時間かかっちゃったなぁ」
　そう言いながら、朱乃の隣に腰を下ろすと遅れを取り戻すかのように店員のお姉さんに教わりながら陽太がラッピングを始める。ココアクッキーは透明な袋に入れて口をリボンで結んできたからそのまま使う事にし、もう１つの渡したい物と一緒にペーパークッションを敷いた水色と白のボーダーの小さな布バスケットに入れていく。
　真剣な表情の陽太を、朱乃がちらりと横目で見る。いつもはあまり見ない表情に、朱乃の心臓がトクンと跳ねた。悩んでいたリボンの色を陽太の髪色と自分の瞳の色にすることに決めると、オレンジがかった金色のリボンと澄んだ青色のリボンを手に取った。リボンを重ねたり、少しずらして見栄えよくすると鋏へと手を伸ばす。
「あ、ごめんねぃ」
「い、いえ……！　こちらこそごめんなさいです」
　偶然鋏へと伸ばした手が、同じく鋏へと伸ばした陽太の手と触れ合って、慌てて朱乃は手を引っ込める。
「はい、どうぞー」
　そっと陽太から渡された鋏を受け取って、朱乃は消え入りそうな声でありがとうございますと答えた。触れた手が熱くて、ドキドキして、それでもラッピングに集中しなきゃと朱乃は鋏を手にしてリボンをカールさせてラッピングを完成させた。
　陽太の方も布バスケットを薄い水色の不織布で包み、閉じ口をレースリボンで結ぶとショコラ色のハートのシールでリボンの裾を留める。
「出来たねぃ♪」
「はい、私も完成したですの！」
　出来上がったラッピングに満足そうに笑うと、お姉さんにお礼を言って２人はお店を後にした。
「それじゃー次はマリンランドだー！」
「はい！」
　出来上がった贈り物を鞄に入れて、２人は次の目的地へと足取り軽く向かうのだった。

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