【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！｜リアクション

【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！

　アリスのお茶会は人が途切れる事も入りきれない人が出る事も無く、恙無く人々を楽しませていた。さすが星ヶ丘が誇る高級ホテルだな、なんて思いながらオレンジブラウンの髪を揺らして音海なぎさはビュッフェのスイーツを皿に載せていた。
　本日お１人様、バレンタインなんてどこ吹く風だったけれど、バレンタイン気分なお茶会を楽しみたいと思うのはまた別の話だ。元々甘い物が好きで可愛い物も好きな彼の事、アリスのお茶会と言う名を冠したスイーツビュッフェに惹かれないはずがなかった。けれど、それを大きな声で言うのは恥ずかしいと思う気持ちがあったし、男らしくない……と感じる気持ちもあって。普段から女の子と見紛う容姿ではあるし、『スイッチ』が入れば『ナギ』にもなるけれど……なぎさはちゃんとした男の子なのだ。
「次はこれと、これも食べてみようかな」
　白い皿を彩るように、ベリーとチョコが２層になったムースや瓶入りのプリン、白兎の形をしたホワイトチョコプレートが飾られたレアチーズケーキを載せて、ビュッフェ会場の端っこのテーブルへと戻り椅子に座った。
　そうして、美味しいスイーツを楽しみながらお茶会に来る人々をなぎさは興味深げに眺める。人間観察と言うべきだろうか、どういう人が訪れているのかとか、普段ホテルに来ないような人も来るのだろうかとか。そんな事を考えながら、楽しそうにしている人々をプリンを突きながら失礼にならないように視線をやった。
　やはりバレンタインと言うこともあって、カップルが圧倒的に多かったけれど変わった組み合わせで訪れる人達もちらほらと見てとれた。仲睦まじそうな大人のカップルとか、カップル未満な２人や、男２人に女１人かと思えば実は男３人だったとか。そしてそれは知った顔だったりして、なぎさは微笑ましく視線を外す。
「あ……」
　視線を外した先に居たカップルに、思わず声が出た。綺麗に着飾った女の子がチョコレートが入っているであろう、綺麗にラッピングされた箱を向かい側に座る男に差し出していたから。それは甘い恋人同士というよりもたった今告白をしているような雰囲気で、なぎさは慌てて視線を手元の皿へと落とした。
「覗き見がしたい訳じゃないからね」
　それくらいのマナーは持ち合わせているんだからと呟いて、ベリーとチョコのムースを口に放り込んだ。ベリーの甘酸っぱさと、チョコレートの甘さが舌の上で踊っているようで、ぺろりと食べきってしまう。皿の上のスイーツが無くなると、また立ち上がってビュッフェへと向かう。
「あれ……ビュッフェメニュー、かなり制覇してる？」
　見渡すと食べていない物の方が少ないようで、摂取カロリーを考えるとちょっぴり恐ろしくなる。消費行動をした方がいいのではないかと思いつつ、甘い物は食べてて幸せになるのだから仕方ないと、まだ食べていないプチタルトやマカロンを皿に載せた。
　通り掛かったウェイターに紅茶を頼み、口に広がる優しい甘さを堪能しながら人を眺める。腕を組んでビュッフェ会場から出て行くカップルや、女の子同士できゃあきゃあと楽しそうにしているグループ、ここにいる全ての人が今日と言う日を、このお茶会を楽しんでいるのが見えた。
　この楽しい世界が終わる頃まで、もう少しの間……美味しい紅茶とスイーツを楽しもうと、なぎさはパステルブルーのマカロンを齧る。
「それでもきっと、不思議なお茶会は終わらないんだよ、きっとね」