打ち切り世界の伏線回収者～Flag Savior｜リアクション

打ち切り世界の伏線回収者～Flag Savior

●第三十一章～蜂蜜姫の受難
　――物語は既に三十章台に突入していた。もう最終回終わってね？　とお思いの方も居られるかもしれないが、一章辺りに割いている時間は短いのでご安心下さい。
「打ち切り世界とは随分そそるな。ふふふ、楽しませてくれよ？」
　と、黒幕っぽい雰囲気を醸し出して囚われの姫の元へ現れたのは、魔王配下となった千歳飴楓子である。こういう役回りも有りなんだろうとくすくす笑う彼女は、鎖に繋がれ身動きの取れなくなっている姫の様子を、面白そうに観察し始めた。
「さてさて、囚われのお姫様はいかがお過ごしかな？」
「誰がお姫様だ誰が！！　と、とにかく魔王を倒さなきゃ……って、なんで捕まってんだよ！？　しかも女装じゃねーか！」
　かちゃかちゃと両腕を拘束している枷を鳴らし、ちょっぴり気の強そうな顔を羞恥に染めた美少女――否、それは来島アカリと言う、れっきとした少年である。
「おっと、そんな怖い顔をしては、せっかくの美しさが台無しだぞ」
「何の前触れもなく、いきなり捕まったんだけど何でだよ！　おかしいだろ！　こっから仲間とか探して、いざ討伐って感じだっただろ！　おい、やめろ千歳飴ー！？」
　早く此処から出て、魔王をぶっ倒さねーととは思うものの、慣れないひらひらドレスで鎖に繋がれてはアカリにはどうしようもない。しかも、なす術の無い彼へ楓子の魔手が迫り――この恐るべき魔王の手下は顎クイをした挙句、とんでもないことをのたまったのである。
「なに、恐れる事は無い。これから魔王様の第４６４０９夫人になるための婚礼の儀を行うんだ。綺麗な花嫁衣装も用意しているぞ」
「誰が着るかっつーの！　絶対そんなんやんねーからな！　ってか魔王の嫁多すぎだし？！」
　じたばたとアカリは暴れるが、さあ脱いだ脱いだと楓子は全く取り合わなかった。が、とっとと着替えさせようとドレスの裾に手をかけた所で、彼女は今更ではあるが重大な事実に気付いたようだ。
「……あ、そういえば男だったか……」
「わ、やめろ脱がせんなそんなとこ触んじゃねー！？」
「まあ性別なんて、特に問題は無いな」
「問題あるよ！　大アリだよ！」
　合間合間でアカリの悲痛なツッコミが入るが、楓子はさらっと受け流して思案に耽っていた。しかし、これだけだと自分の悪役感が薄い――もっと嫌がらせを、と決めた所で、彼女はぽんと手を叩く。
「……そうだ。姫に蜂蜜でも塗り込んでおこう」
　そんな訳でろっこんの力を使うことに決めた楓子は、アカリ目掛けて金貨をばら撒いた。すると何ということか、瞬く間に金貨は蜂蜜に変わり――黄金の蜜は妖しく蕩けてアカリの肌とドレスを濡らし、何とも言えない甘ったるい匂いが辺りに漂い始める。
「ははは気持ち悪いか。どんなに嫌がっても助けはこないぞ！」
「ってなんだこれハチミツ！？　やめろこんな絵面どの層が求めてんだよ！！」
「しかし、ふむ……これはこれで、何かえろいな」