打ち切り世界の伏線回収者～Flag Savior｜リアクション

打ち切り世界の伏線回収者～Flag Savior

●第二十三章～破滅を望む魔海の将
　こうして打ち切り世界の旅は、慌ただしくも確実に終わりへと近づいていく。宿命のライバルとの決着は、衛が苦手な牛乳の一気飲みになってしまったが、エスカルゴがライバルを笑わせてくれて無事勝利した。
　そして洗脳されていた仲間はと言うと、刀が峰打ちをして無力化――修が「今まで悪い夢を見ていたんだ」と説得し、ついでに襲って来た四天王最後のひとりも、清浄の十字架を降り注がせて撃退に成功する。
「折角なのでガイドから頂いたぞ」
　――と、何やら修が不思議なことを言っていたが、きっと世界の壁を越えて見える筈の無い何かを見たのだろう。そんなこんなで色々あって時間が押しており、中盤に起きる筈だった海洋イベントが、終盤にずれこんでしまっていた。
「……遅かったわね」
　海風に黒髪を揺らす女海賊――否、その正体は魔王の海軍部隊の将だ。すらりとした肢体を、動き易い海賊服に包んだ朝鳥さゆるは、配下の魔物たちを率いて勇者たちと何度も刃を交えていた。
　妖艶にして苛烈なる戦略家である彼女は、勇者一行の修とも知略を競ったが――戦う度に強烈な破滅願望が首をもたげ、あろうことか勇者の仲間に加わったのだ。
（魔王打倒まで、一時的に対立を棚上げしましょう）
　手にした魔銃で躊躇いなく配下を撃ち抜いたさゆるは、このまま主である魔王に戦いを挑むのも悪くないと思ったのだろうか。しかしその本心は、誰とも打ち解けようとしない冷ややかな相貌からは窺い知れなかった。
「魔王の城なら、勝手は知っているわ。貴方達が探している、姫の居場所もね」
　彼女の案内を受けて、一行は秘密通路から魔王の城へと侵入を果たし、立ち塞がる敵を片っ端からさゆるが葬り去っていく。
（近づく前に、全て仕留めれば問題無い）
　自分自身の心に巣食う、強烈な破滅願望――それを暗黒魔法で処理し、破壊力に転化したものがさゆるの魔弾の正体だ。その威力は圧倒的で、魔王の軍勢は彼女との間合いを詰めることさえ出来ず、その精密な射撃の的となって弾け飛んでいった。
「……っ」
　――しかし其処で、さゆるの美貌が苦悶に歪む。直ぐに彼女は平静を装ったが、その顔色は死人のように青ざめていた。
（あと、時間は……どの位……？）
　魔銃の破壊力、その代償は彼女の生命。撃つ度に少しずつその命は削られ、最早生命の蝋燭は燃え尽きる寸前だった。しかし、それでも――さゆるは、終わりの時を待ち望んでいたのかも知れない。
　傷つき血を流すこと。それこそが強烈に生を感じられる瞬間であり、この身と引き換えに何か――誰かに、自分の居た証を刻み付けたいと、そう思ったのかもしれない。
　きっと、あたしは壊れているのだろう――何処か他人事のようにさゆるは頷き、姫の幽閉されている扉に手をかけて。――そして盛大にずっこけた。

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