打ち切り世界の伏線回収者～Flag Savior｜リアクション

打ち切り世界の伏線回収者～Flag Savior

●第十二章～眠りの賢者と旅商人
　――勇壮な行進曲に乗せて、勇者たちの旅が目まぐるしく展開されていく。どの位目まぐるしいかと言うと、一枚の静止画に簡単なナレーションをつけたシーンが怒涛の勢いで続いていく、と説明すればお分かり頂けるだろうか。
「うーん、打ち切りはマズイ。実にマズイねぇ」
　そう言って、気怠い様子で一行の旅に加わったのは、眠りの賢者と称えられる壬生由貴奈だった。何がマズイと言えば、見ている人の印象も悪いし作者も居た堪れない――まるで神の如き視点で世界を見る彼女は、優れた電撃魔法の使い手でもあったのだが。
「でもうち、雷は苦手だから電撃魔法使えない」
「うわぁ、見事にキャラメイク失敗してるね！？　……って、勇者枠多そうかと思ったら、意外に魔法使いが多かった！」
　才能が無駄になってしまった由貴奈は、解説役兼知恵袋となり――敵が現れる度に「もしやあれは」と、ちょっといい話を披露してくれることになった。エスカルゴはそんな彼女にさらりとツッコミつつも、回復役の居ないパーティの為に、しこたま薬草やポーションを買い込んでいく。
「あ、旅商人さん、薬草９９個ください！」
「この世界ちゃんと終われるのかなぁ……。俺は勇者とか救世主とかそういう大役には向いてない気がするんだよね。……はい、まいどあり」
　簡単な世間話をしつつ、旅商人Ａ――もとい花厳望春は鞄から薬草９９個を取り出し、ついでに飴ちゃんもおまけしてあげた。――どう見ても鞄に入りきる量ではなかったが、ここまでくると突っ込むのも野暮と言うものだ。
「で、俺は勇者達の訪れる村の先々に現れる、便利屋さんみたいな職業になろうと思ったんだけど。……ゲームとかでたまに『封印されし遺跡』とかの中継地点に、商人いたりするよね」
　ああいうのって、どこから入ってきてるんだろと素朴な疑問をぶつける望春だが、現在の状況もそれに負けず劣らず凄かった。
「四天王の二人、いや三人目だったか？　やってやるぜ！」
　数歩先も満足に見通せない猛吹雪の中、白い息を吐きながら刀が斬りかかる。そう――彼らは今まさに、風を司る四天王との決戦を迎えており、身を斬り裂く鋭い鎌鼬を、春彦は炎を纏った大剣で真っ向から迎え撃った。
「……ぐっ！」
「おお、戦士はらひこよ、倒れるとは情けない」
　前衛で盾となり仲間たちを守る春彦だが、負傷が積み重なり遂には膝をつく。しかし其処でエスカルゴが、先程望春から購入した薬草を大量投入した。
「ひでぇ目にあったぜ……って先輩、俺『はらひこ』じゃねーっす！　春彦っすよむごごごご！」
　問答無用で薬草の束（かなり苦い）を口に突っ込まれ、目を白黒させた春彦は必死に薬草（匂いもきつい）を飲み込もうとしていた。ちなみにその少し近くでは、早々に戦闘不能になった勇者うのきん――衛が、ポーション（ぶっちゃけまずい）を吹き出して痙攣している。
「ちっ意外と強ぇなコイツ……」
　それでもちょっぴり持ち直した春彦は、尚も四天王に立ち向かうが、修の魔法の援護もあるとは言え押され気味だ。
「うーん……まぁいっか。適当に炎とか水とか出せば」
　――と、電撃の魔法を諦めた由貴奈は、何と其処で炎と水の魔法を立て続けにぶっ放した。すると相反する属性の魔法はぶつかり合い、爆発を起こし――その衝撃で雪山に雪崩が発生する。
「うわわわわ」
　そのまま雪崩に巻き込まれた由貴奈は、あっという間に見えなくなって。四天王が一瞬其方に気を取られた隙を狙い、飛び掛かった春彦はもつれあって、敵もろとも崖から転落していく。
「こうなっちまったらしょうがねぇ、後は任せたぜ……」
　アイツらに任せときゃ何とかなんだろ――ニヒルな笑みを見せた春彦は、最後にそう呟き親指を立てて消えていった。
「は、はらひこ――！！！」
　嗚呼、四天王辺りを足止めして「ここは僕たちに任せて勇者は先に……！」とかやりたかったのに、先を越された羨ましい――じゃなくて、魔王軍許すまじ。
「く、仕方がない……僕が、僕が勇者を魔王の元に！」
　震える拳を握りしめたエスカルゴは、仲間たちの犠牲の上で手に入れた勝利を、何としてでも活かそうと決意する。取り敢えず刀や修と協力して、雪に埋まっていた衛を掘り起こし――そのまま両足を持って引き摺りながら、一行は魔の雪山を越えていった。
　――いつしか吹雪は止み、魔王の大陸へと続く海が彼らを待ち受ける。見上げた青空には半透明の由貴奈と春彦が、爽やかな笑顔を浮かべてガッツポーズを決めていたのだった。

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