アウトレットへいこう｜リアクション

アウトレットへいこう

　どうやら楓の注文したコーヒーについてきたらしい、ハートの器にチョコレートが３個。
（バレンタインイベントのチョコレート、って言ってましたケド……？）
　湧き上がる疑問はトワの興味を膨らませ、オムライスを食べる手が止まる。
「カエデ、カーエーデ！」
「なんだ？」
「バレンタインってなんデス？」
　書籍に視線を落としていた楓もようやく視線をあげ、首を傾げるトワを見やる。
「トワのともだちは、バレンタインの日はchocolateあげるねって言う人もいるマス」
　どのような意味があるのか知らないらしく「トワにも教えるデス！」と身を乗り出してきた。
　これには楓も返答に窮してしまう。
「えーと、だな……とりあえずこのチョコはトワにやるよ」
「Ｔｈａｎｋｓ！」
　自分は食べないからと、頬杖をつきながらチョコレートを差し出すとトワは目を輝かせる。
　オムライスをぺろりと食べきり、オレンジジュースで口直しするトワを見つめ、楓はどう答えたものかと思案した。
（いっそこの日、戦争で亡くなった奴への供養にチョコレートを贈る、ってことにしちまおうか……）
　ハードな由来があることにしてみようと思ったが、それはおそらく意味を成さない。
　なぜなら彼女が学校で話しかねないし、間違いであることを聞けばどんな反応をするか目に浮かぶ。
　詳しいことは学校で聞くだろうと結論付けると、楓は面倒そうに口を開いた。
「好きな相手に贈り物をする行事だ」
「ｐｒｅｓｅｎｔ　ｅｖｅｎｔ、ナルホドー」
「外国だと男から花を贈ったりするみてぇだけどな」
　貰ったチョコを口に放ると、濃厚な甘みとクリームのまろやかさが広がり、トワは満面の笑みを浮かべる。
（てことはこのｃｈｏｃｏｌａｔｅも、ｖａｌｅｎｔｉｎｅｃｈｏｃｏｌａｔｅデスカラ……好きな人だからもらえた。ナルホドー）
　楓に他意はないのだが、トワからしてみれば『もらった』事実は重要であり、嬉しい気持ちもある。
　ならば、自分も好きな人にＨａｐｐｙな気持ちを贈りたい。
「トワにも好きな人一杯居るマス！　カエデもｃｏｆｆｅｅ飲んだら戻るデス！」
「はぁ？」
「今度はＶａｌｅｎｔｉｎｅ　ｓｈｏｐｐｉｎｇするマス！」
　すでに指折り数え始めているトワの様子を見れば、止めることは出来なさそうだ。
「カエデにもｐｒｅｓｅｎｔあげるマス、楽しみにするデス！」
「おー、期待してるぞ」
　適当に返す楓だったが、当の本人はすでにショッピングモードで今にも飛び出しそうな勢い。
　残りのコーヒーをぐい、と飲み切ると楓は伝票と買い物袋を手に席を立つ。
（即返せるやつ考えねぇとなぁ）
　当日『三倍返しするデスよ！』なんて言われないだろうかと予想しつつ、先走りそうなトワを待たせて会計を済ませると、チョコレートを求めて旅立っていく。

　＊＊＊

「おーい、修くーん！」
　八神修が視線を向けた先には大きく手を振る小柄な少女の姿。
　手を振っていた鴇波羽衣も、修が気づいたことに気づくとぱたぱたと駆け寄ってきた。