アウトレットへいこう｜リアクション

アウトレットへいこう

「……なんだか良い匂いがしますわね？」
　気づけば時刻は昼前。美味しそうな匂いの元を探して左右が角を曲がると、正面に『ラーメン』の文字……どうやらこの奥らしい。
「お食事処ですのね、入ってみましょう」
　ドキドキと期待に胸を膨らませ、左右が暖簾をくぐると、店内はカウンター席のみの造りとなっていた。
　座っているのは男性客が多く、底の深い器に向かって一心に食事に励んでいた。
　空いている席を見つけて左右は腰をかける。
「男性の方が多いですわね、人気のお店なのでしょうか？」
　首を傾げる左右の一言に、両隣に座る男性達が横目で一瞥するが、左右は気にせず不思議そうにメニューを開き始めた。
　肉玉？　全盛り？　増し増し？
　――書いてある内容も、イマイチイメージが湧かない。
「いらっしゃっせ！　ご注文はお決まりっすか？」
「え、と……では、味玉チャーシューの塩とんこつ？　をお願いしますわ」
　年若い店員がカウンター向こうから注文の確認にやってきて、左右はひとまず人気がありそうな物にした。
　よく分からないが『一番人気！』と書いているのだから、美味しいのだろう。
　想像もつかない一品に期待を膨らませつつ、左右は待っている間に食べている他の客にチラリと視線を向ける。
（小さいパイ包みのようなものを食べてる方もいますわ？　それに白くて細長いお野菜を山盛りにしてる方も……）
　まだまだ未知の料理があるんですのね、と感心していると、左右の前にも待望のラーメンが置かれた。
「おまたせしゃーした、味玉チャーシューの塩とんこつです！」

　赤く縁取りされた黒いどんぶりの中には乳白色の豚骨スープ、細いストレート麺の上には刻んだ万能ネギに細切りのきくらげ。
　並ぶ厚切りの豚チャーシューに、燻製した卵が半分に切り分けられ、とろっとした蜜のような黄身が溢れそう。
　そして、探していた美味しそうな『匂い』の正体がコレだと、左右はすぐに分かった。
「まぁ！　これはクリーム仕立てなのでしょうか？」
　左右の予想外な一言に、店中の視線が一気に一点に集中する。
「ラ、ラーメン知らないの？」
「あ、はい、どのようにして食べれば良いのでしょう」
　隣に座る男は訝しんでいたが「ご教示して頂けませんか？」なんて、可愛い女の子に懇願されては断れないだろう。
「スープに絡めて食べりゃいいんだよ。麺もそのまま啜ったり、ネギとかきくらげと一緒にしてな？」
　こうやるんだよと、豪快に啜るところまで披露する男に礼を告げ、さっそく左右も初ラーメンに挑む。
「……！？！？」
　その一口は左右に衝撃をもたらした。
　細い麺に絡みつくあっさりしたスープは、クリームとはまた違う濃厚なコクとまろやかさ。
　それを引き立てる塩の旨味が食欲を湯水のように湧き上がらせる！
「とても……美味ですわ！」
　この世にこんな素晴らしい逸品があるなんて――感動に打ち震える左右は一口、また一口と運んでいく。
「こんな美味しいものを隠していたなんてラーメン屋も中々やりますわね……！！」
　何事かと遠巻きに窺っていた周囲の客も、純粋に喜ぶ左右の様子に『本当に知らなかったの』と。
　今は微笑ましく見守っている。
　あっという間に食べきった左右は、お冷で口直しを済ませて満足げに一息。
「……美味しくて量もあって大満足ですわ」
　想像もしなかった一杯との嬉しい出会い、今日は実りある日になったと左右はぼんやり思った。

　＊＊＊

「なぁ、そう怒んなって」
　昼下がり、カフェの片隅で夜海霧楓は眉をハの字にさせ、トワ・E・ライトフェロゥをなだめていたが
「ｎｏ！　トワも見たかったデス！」
　可愛らしい女の子向けブランドのショップ袋を傍らに置き、ぷくっと頬を膨らませてそっぽを向く。