アウトレットへいこう｜リアクション

アウトレットへいこう

　――チラ、と視線を上げて見えるのは所狭しと掲げられている『Ｖａｌｅｎｔｉｎｅ』の文字。
　どこもかしこも、ピンクと赤、チョコレートブラウンの装飾が目につき、恋する女の子達の姿も見える。
「尚輝先生はどんなチョコがお好きなんでしょうね」
　ぽつりと呟く時子の脳裏には、憧れの先生の姿。
　せっかく渡すのだから、最高の手作りチョコを用意するためにも参考に出来そうなものを見つけたい。
　ようやくチョコレート専門店を見つけると、開店時間を過ぎたばかりであるが、すでに女性客が数人来ていた。
「さすがに数が多いですねぇ、それにチョコの良い香りが……」
　ほっこりと幸せな気持ちで眺めながら、予算内に収まるよう色々なチョコに手を伸ばす。
　――色とりどりのオランジュ、ハート形のブラウニー、ココアや刻みココナッツをまぶしたトリュフ――
「チョコタルトもいいですね、タルト生地から作るのも良さそうです」
「お探しの物はありましたか？」
　箱ごと手に取って見ていると、店員が悩んでいるのかと声をかけてきた。
「いえ、プレゼント用を探してた訳じゃなくて、どんなチョコを作るか参考にしようかと」
「あら、手作りですか」
　よかったらレシピ本や湯煎用の板チョコもあるので見ていって欲しいと、一声かけると店員はそっと下がっていく。
（そっか、レシピから探すのも手でしたね）
　ひとまず参考に、と集めたチョコの会計を済ませて、休憩を兼ねて近くのコーヒーショップへ。
　カフェラテとケーキを乗せたトレイを受け取り、席に着こうとすると
「……あ、そうだ。せっかくならチョコに合うコーヒーもあるといいですよね」
　ふと先生もコーヒーが好きだったと思いだし、小休憩を済ませて再び店頭に戻る。
「あの、チョコに合うコーヒーってありますか？」
「物にも寄りますが、ミルクチョコでしたらこちらの深煎りのものが……」
　店員に進められるまま、深煎りのインスタントコーヒーを購入。
　すでに両手には多くの紙袋が提げられていた。
「思ったよりいっぱい買っちゃいましたね……」
　我ながら気合の入ったショッピングになってしまったと、時子は苦笑い。
　――荷物を抱えながら、ウインドウショッピングをしていると外はとっぷりと暗くなっていた。
「さすがに朝から出歩いていると、疲れてしまいますね……」
　ただでさえ持久力がないだけに、今日はけっこうな運動量になったかもしれない。
　時子がふらふらと外に出ると、ふとイルミネーションで輝く大観覧車が目に止まる。
　瞬く間に色を変えていく姿は、寒空の中で幻想的に映って見えた。
　時子はチラ、とスマートフォンに視線を落とし、現在時刻を確かめると
「……暗くなってきましたけど、まだ寄り道しても大丈夫ですよね」
　袋を抱え直して、時子は大観覧車へと足を運ぶ。
「うわぁ……！」
　眼下に映る街の夜景が見下ろす時子の頬を照らし、見慣れた街とは別の顔を見せる。
　そんな景色を見つめていると、ふと脳裏に過ぎる横顔。
（先生、今はなにをされてるんでしょうか……）
　今日はお休みなのに、また研究室に居るのでしょうか？
　栄養のあるものをきちんと取られているのでしょうか？
　――次第に、寂しさと切なさが込み上げてくる。
「いつか……一緒にこの景色を見たいですね」
　時子の呟きはふわりと夜景に溶け込んでいく。

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あとがき

担当マスター：木乃
ファンレターはマスターページから！

　ご参加いただきありがとうございました！
　休日の一幕でございましたが、楽しんで頂けましたでしょうか？
　めいっぱい楽しめた！　と思って頂けたら幸いです。

　お買い物されるとしたら、やっぱり『こういう物を見ようかな』とか、『こんな感じのが好きなんだよね！』とか、『ああいう料理をよく食べる』と好みは十人十色かと思います。
　漠然と『これ』というだけですと、ちょっと分かりにくかったりしてしまうので……。
　例えば『帽子』と言っても色やデザイン、系統なんかでもかなり変わってきます。キャスケット帽、シルクハット、つば広帽に野球帽などなど。
　よければ『赤い帽子』だったり『ベレー帽』だったり、なにか一つ『これかな？』というイメージできるワードがあるとより詳しく描写させて頂けるかと思います。

　もし同じような場面があったときにご参考になれば幸いです。

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