アウトレットへいこう｜リアクション

アウトレットへいこう

　袋の中には真っ白なフリルだったり、蒼いワンピースだったりと春に向けた新しい装いが詰まっている。
　――それらを全て運んだは、目の前で困り果てている楓であるが。
「……はぁ」
　こまったお嬢さんだ、と溜め息を吐くと楓は席を立とうとする。
　彼女が不機嫌なのは、楓の傍らにある書店に立ち寄ったときのことだった。

（お、ニャールドトリガーの新刊出てる）
　そのとき、すでにトワの買った服で両手を占拠されていた楓は書店の新刊コーナーを見つけた。
　ちょうど新しく本を買い足しておきたいなぁと思っていたところだが……
「カエデ、なに見てるマスか？」
　唯一にして最大の問題は、目を離すと即座に周囲から消える同行者だ。１０秒も目を離せばすぐ見失ってしまう。
　楓はトワを一瞥すると
「ちょっとだけ待っててくれ！」
　と言いつけ、早足で書店の中へ突入する。
　コミックの新刊を手に取ると人混みをかき分けるように、書籍ラックのあいだをすり抜けていく。
　考察オカルトレポート、寝子島周辺に関する歴史本、新光学、木乃のトラベルといったライトノベルなどなど。
　目についたものを片っ端から手に取り、レジに直行――その間、９．８秒。
　店頭で待っていたトワは、別の本がないかと探しに行こうとして楓に止められた次第だ。

「トワがほん見る時間、なかったデス！」
「落ち着けって。だいたいお前、部屋で本読まねぇで外に飛び出すタイプじゃねぇか」
　ばんばん！　先ほどからテーブルを叩く音に周囲の視線が集まり、楓は落ち着くようになだめる。
「お待たせしました、半熟オムライスとオレンジジュース、コーヒーです。こちらのバレンタインイベントのチョコレートもどうぞ」
　そこに、ウェイトレスが先ほど注文された品々をテーブルに置いていく。
「トワ、腹減ってるだろ？　ここのオムライス美味いらしいぞ～」
　楓は目の前に持っていくと、カトラリーケースも添えてトワが食事をしやすい環境を整える。
　――全ては、本の選別の為に！
「lunchでトワの機嫌は治らな……」
　と言いつつオムライスにスプーンを伸ばすトワは、とろけるような黄身と濃いめのチキンライスを口に運ぶ。
　途端に目を輝かせ始めた。
「berry delicious！」
　食べている間はさすがに何処かへ行く心配はない――ぱくぱく食べ始めるトワに楓は安堵し、先ほど買い集めた書籍を手に取り始める。
「ニャートリは帰ってから読むとして……なんだこのどぎついピンクのクマ（？）は」
「うーん。おいしい！　デス！」
　トワが一人、賑やかに食事をしているとふと気になる物が目についた。