アウトレットへいこう｜リアクション

アウトレットへいこう

「偶然だね、修くんはお買い物？　――あ」
　羽衣が視線をあげると、そこが期間限定でオープンしているチョコレート専門店だったことに気づく。
「期間限定のお店ってここだったんだねー……何かいいの、売ってた？」
「いや、これって決められる物がなかなか見つからなくてな」
「……こういうチョコ、もらえたら嬉しい？」
　綺麗に包装された箱に、美術品のような繊細な仕上がりのチョコレート。
　とても家では作ることの難しい、食の芸術品だ。
　修は羽衣の問いに、顎を撫でながら思案に耽る。
「うーん……もらって悪い気はしないけど、自分で作るってのも良いからな……」
「……なるほど、やっぱり手作りがいいんだねー」
「？　それがどうかしたのか？」
　訝しげに問い質す修に、羽衣は慌てて「なんでもないよ！」と返す。
（ほんとは男子のチョコの好みを聞きたかった、なんて言うのはちょっと恥ずかしいし……）
　慌てて話題を変えようとして、どこぞを指差す。
「あ、あたしは何か冬らしいふわふわしたものを探しに来たの」
　あそこのお店だと、指差した先の店頭には可愛らしいビーズのアクセサリー、細いワイヤーから毛糸など手芸用の雑貨が並んでいる。
　サンプルとして展示されているビーズのブレスレットや、ネコのあみぐるみも置かれていた。
「へぇ……」
「よかったら修くんも一緒に見る？」
　興味を引かれたような修を羽衣が誘うと、修も諾の意を返して店へと向かっていく。

　揃って中に入ってみると、所狭しと手芸品が陳列されていた。
　今はまだ肌寒い時期とあってか、ウールやフェルト素材が多く並んでいる。
「ふわぁ……か、かわいいっ」
　そこにもサンプル展示されていて、もこもこな羊のぬいぐるみや、モヘアで出来た手のひらサイズのクマにフェルトのネコの姿が。
　手に取ってみると、柔らかくてさらさらした触り心地が伝わってくる。
　つぶらな瞳も愛らしく、見つめている羽衣の瞳もキラキラと輝いていく。
「かわいいなー……あ、抱っこできそうな子もいるよ！」
　次々と手触りのよさそうな小物に手を伸ばす羽衣の姿を見て、修も笑みをこぼして周囲に視線を巡らせていると、傍らのあみぐるみが目に止まる。
「へぇ、毛糸でこんなのも作れるのか……こっちは二色の布で組み合わせているな」
「すごいねぇ、ちょっと大人っぽい感じがする！」
　羽衣も修の傍に戻ってくると、なにかを手にしていた。
「それは？」
「これ？　えへへ、ネコのフェルトぬいぐるみが可愛いなぁって思ってたら製作キットがあったから」
　必要なものは一通り揃っているし、リボンや花の飾りなんかをつけてアレンジすることもできるのが良い所だ。
「鴇波はよく作ったりするのか？」
「前にぬいぐるみとか作ったこともあったけど、しばらく手芸から離れてたからまた勉強し直しかなー」
　こういった物も勉強が必要なのか、と思うと『そういう必要なのか』と修は新しい発見に感心して頷く。
「修くんもなにか買ってく？」
「俺は――」
　特にないかな、と言おうとした最中。
　ふと毛糸の束がワゴンに山積みされていることに気づく。
　単色の落ち着いた色から、一本の毛糸を細いもので組み合わせたカラフルな物もある。
「これ、買っておこうかな。うちの猫たちが好きなんだ……玉を作ってるときなんか不思議そうに見つめてきたリしてさ」
　さすがに全員分は買えないが、三個もあれば全員分は用意できそうだ。
　適当な色の毛糸を手に取りながら、わくわくして待ちきれない様子の家猫たちを思い出し、修の口元に笑顔が浮かぶ。
「いいお土産になったね！　ねこちゃん達も喜んでくれると思うよ」
　揃って会計を済ませると、羽衣は満足げな笑みを浮かべて店を後にして、休憩しようと飲食店エリアに向かう。

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