アウトレットへいこう｜リアクション

アウトレットへいこう

　にっこり笑顔を返す女性が試食用のチョコを入れたケースを差し出し、どうぞと勧めるので、陽毬も遠慮なく手を伸ばす。
　ケースには濃い黄色のキューブチョコが入っていた。
「――！？」
　食べた瞬間、陽毬に電流が走る。
　この濃厚な甘味はマンゴー！？　しかし、チョコ本来の風味を損なっている訳ではない。
　マンゴーが強くなり過ぎないよう、ほんの少しレモンの酸味を効かせ、ほどよく抑えているのだ。
　蕩けるように広がる味わいは、爽やかでフルーツらしさも残っている！！
「美味しー！　これ、これ買います！」
　他にも食べてみたいな～と、物欲しそうなオーラを醸す陽毬に店員も気をよくしたのか、
　次々と勧めはじめて、陽毬の手元にチョコレートの箱が増えていく。
　流がナッツ入りのブロックチョコを選んで、戻ってくる頃には陽毬の手の中に箱の山が出来ていた。

「おい本居、その箱の山……」
「これ？　これがアウトレット内の休憩スペースで食べる分でしょ、こっちは家に持って帰るお土産分！　あ、水守くんからのプレゼント分も欲しいな～」
「奢るって言ったけど量と値段は考慮して欲しいな！？」
　ちゃっかりプレゼントまで催促する陽毬に、流の開いた口は塞がらないが、
　陽毬も譲ってくれる気配を全くと言っていいほど感じさせない。
　――機転を利かせてもらった手前もある、流が折れるしかなさそうだ。
「……解ったよ、そういう約束だもんな」
「あら、彼氏さんですか？　お買い上げありがとうございます♪」
　陽毬に勧めていた店員にレジまで案内されると、流が会計を済ませ、箱をぎっしり詰めた紙袋を受け取る。
　これでどこからどう見ても、荷物持ちに連れて来られたようにしか見えまい！
　流が店の外に出ると、人波に揉まれていたのか少し遅れて陽毬も出てきた。
　人だかりから離れたベンチに並んで腰掛けると、流は背もたれに疲れた体を預ける。
「ふぅ、ミッションコンプリート！　いやぁ、助かったぜ」
「こちらこそただチョコ、ゴチになるよ！」
　代償は高くついた気がしなくもないが、これを逃したら食べる機会を損ねてしまう可能性が大いにある。
　今日ばかりは値段相応の買い物だったとしておこう、流はそう思うことにした。
「それにしても本居、今日は特に遠慮がないな」
「むふふ、食べ物が関わる世界に慈悲はないのだ……！」
　仕送りの少ない身としてはチョコを買いあさる滅多にないチャンスと言えよう。
「それに、他人の奢りだと思うと尚更美味しく感じるからね！」
「気持ちは解らなくないけどさ……なんか小腹空いてきたな、フードコートで適当に飯ってくか？」
「タダご飯！！！」
　この様子からして陽毬は断る気もなさそうだ、さっそく移動しようと流がゆっくり立ち上がろうとする。
「あ、水守くん」
　呼び止められた流が振り返ると、陽毬は自身のバッグから何かを取り出してみせた。
「これは私から水守君へ、今日のお土産だーい！　サプライズ！」
　どうやら、先ほど出るとき遅れた理由はこれらしい。
　透明な箱からドライフルーツが入ったボンボン・ショコラが覗いており、流はあっけにとられた。
「お、俺に？　……ありがと」
　思わぬプレゼントに流の顔は熱くなるが、陽毬は気にする様子もなく流の手を引き歩き始めてしまう。
「次はタダご飯だー！　ラーメンとクレープにドーナツとー」
「ちょ、本居、勘弁してくれ！」
　すでにお食事モードに入ってしまった陽毬に止まる気配なし。
　流のお財布はしばらく隙間風が止まない……かも？

　＊＊＊

　桜花寮でゆっくり過ごすのもいいけれど、たまにはお外で探検するのもいいと思う。
　そう思ってやってきた上下左右は一本杖をつきつき、アウトレット内を散策していた。