スターエアーバトル｜リアクション

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【鬱金の金はお金の金】

　その頃、刈安鬱金は踊っていた。

「うこんのうの字はっど～ぅ書くのぉ～♪ こ～う書いてこ～う書いてこ～う書く――のぉぶぁああああああああっっ！？」

　そんな鬱金を桜崎巴は金属バット（その辺の不良をシメて取り上げたもの）で思いきり殴っていた。理由は一つしかない。なんだかムカついたからだ。
「……な、何をするんだ、きちゃまぁっ……！？　ぼ、ぼくはお金持ちなんだぞぉっ！？」
　鬱金が殴られて赤くなった頬を押さえながら、涙目で巴に抗議する。

「そいつはすまないねぇ。あんたを見ていると、なんだか妙にムカついてきたもんだからさぁ……」

　ニタァと口元に笑みを浮かべる巴の顔はまったく悪びれていない。
　巴の背後に、何故かロッコンはいなかった。だのに、どうしてだろう。その辺のロッコンよりもよほど彼女の方が存在感がある。
　さて、すぐそばでそれを見ていた壬生由貴奈は、やんわりとそんな巴を窘める。

「ともえちゃん。いくらなんでも金属バットはひどいよぉ～。せめて、ロッコンでグーパンチぐらいにしとかないとぉ」

　と、殴ること自体に異論はない様子で由貴奈はへらりと笑う。
　彼女の背後にはメタリック感満載のロッコン――スクラップヴェイン。その鋼の腕から繰り出されるグーパンチは下手な金属バットよりも殺傷力が高そうだ。
　そして、その隣にいた桜月も一連の流れを見て、やれやれといったふうに頭を振った。

「……そうだね。まず話ぐらいは聞いてあげるべきだったんじゃないかな？」

　やはり殴ること自体に異論はないように溜息を吐く。彼女の背後には黒いドレスを着た貴婦人のようなロッコン――ブラックレディ。
「おやおや。そいつは申し訳ない。それじゃあ今度は正々堂々素手でぶん殴ってやるとしようかねぇ」
　巴はそんな二人の言葉を受けて、少し考えを変えたようだ。なお殴るのをやめるつもりは毛頭ない。
「う、ううぁあああ！？」
　怯えきった表情の鬱金が、猛ダッシュで巴から距離を取った。
　その様子は心底間抜けだったが、困ったことに逃げ足だけは超速かった。

「おや、逃げ足の速いお人だねぃ。まあ、あっしも他人の事を言えた義理じゃないが」

　そんな鬱金を見下ろすようにして、骨削瓢はニシシと笑う。
　ニシシと笑いながら、瓢は自身のロッコン――悋気の独楽による暴風でまわりの雑魚不良を蹴散らしていく。
「ときに桜崎はん、ちょいちょい」
　ロッコンの力で宙を舞う雑魚不良どもを横目に追いながら、瓢がちょいちょいと巴に耳を貸すように言う。
「……あん？　ふんふん。……ほほう、瓢、あんたも悪だねぇ」
「いやいや、桜崎はんには敵いませんよぃ」
　秘密の会話を終えた巴と瓢は、二人して、とても悪い笑みを浮かべた。
　それは完全に射程外まで逃げきった鬱金をしてがくがくと震えあがらせるにたる凄まじく悪い笑みだった。
「ひ、ひぃっ……！　く、くそっ！　ぼくを怒らせたことを後悔させてやるんだからなぁ！」
　それでも、鬱金は減らず口を叩くことをやめない。
　それどころか、懐からナイフを取り出してひゅんひゅんと振りまわしはじめる始末だ。
　そんな鬱金を見て、椎井莉鳥は呆れたようにぽつりと呟く。

「はぁっ……。口も手もよく動きすぎる男って、好みじゃないわ」
　うんざりとした莉鳥の口調の原因は、鬱金の性質のみならず、莉鳥のロッコン――エレットリチアがまるで言うことを聞かないことにあった。
（……さっきからあの鬱金って男を観察するだけで、まったく動こうともしない。いったい何を考えてるのよ……！）
　そんな心境で苛立ちまじりに呟いた何気ない一言だったが、それは鬱金のちっぽけな自尊心をひどく傷つけたようだった。
「う、うるちゃいっ！　お前みたいな失礼な女は僕が切り刻んでやる！」
　言うが早いか、キレた鬱金は先程見せた逃げ足の速さを今度は接近に駆使し、莉鳥本体に勢いよく切りかかってくる。
「……っ。こら、エレットリチア、なんとかしなさい！」
　莉鳥はそう叫ぶが、エレットリチアはやはり動かない。
「死ぃねぇよぉやぁああっ！」
「……ッ！？」
　物騒な叫びとともに斬りかかってくる鬱金の斬撃を莉鳥は紙一重で回避する。
　陸上部で慣らした莉鳥の動きは金持ちのボンボンにあっさりやられるほど鈍重ではなかった。
　それでも、鋭利な刃に服が切り裂かれていくことは避けられない。
「……っと。おイタはその辺にしておかないと、うちらも黙ってないよぉ？」
「女性の衣服を切り裂くなどという蛮行を見過ごしてはおけないな」
　そこに由貴奈と月が援護に入る。
　スクラップヴェインはスクラップをバリアのように展開し、ブラックレディは扇で自らの顔を隠しつつ攻守バランスの良い体勢で鬱金を取り囲もうとする。
　しかし、
「僕の邪魔をするんじゃねぇっ！　トォォパァァァァズッ！！！」
「「！？」」
　激昂した鬱金がそう叫ぶと、彼のロッコン――トパーズが間接を外した人形のような動きで、由貴奈と月の前に立ちはだかる。
　かくして、ロッコンとロッコン使いが入り混じっての戦いは激化していく。

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