天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――｜リアクション

天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――

　後方。先ほどの超音波をどうにか堪えた八神修の横で、上下左右は『豊穣のアンダンテ』を傷ついた仲間に添付し、表情を引き締める。
「あいつの属性は、木と雷だ。という事は水が弱点にはなりそうもない。『水は木に吸収されてしまう』からな」
　五行の考えを元に推理する修の傍らで、左右は静かに敵を見据える。と、その近くにいたに桜庭円は手を翳し、詠唱を行っていた。
「こっちも遠慮なくいくよーっ！」
　詠唱を終わらせて呼び出されたのは、無骨な鉄でできた右腕。厳つい巨大なチェーンソーを装着した右腕が現れた。金属性魔法『切り裂く右腕』である。チェーンソーは唸りを上げ、いつでも出撃できそうだった。それが円の右腕の動きと連動するから近くに居た者はちょっと怖い思いをしたかもしれない。
　円が手を振り下ろし、腕がユヅキールを襲えば、僅かに表情を険しくしつつ捌く。だが、そこへ襲い掛かるかまいたち！　風の魔法をチョイスした楢木春彦である。

「浮いてねぇで、さっさと落ちて来いよっ！」
　連続でカマイタチを発生する、『サダクビアの乱刃』によって砂が舞い上がり、ユヅキールは三度翼を振るって払う。
「こんどはこっちだ」
　新田亮が杖を振るえば、瓦礫や土くれがユヅキールへと飛んでいく。『大地の弾丸』を発動させたのだ。だが、ユヅキールはそれらを翼で払う。
『小ざかしいっ！』
　近くにいた者たちは、ユヅキールが深く息を吸ったように見えた。それを見、なにかを悟った者がいた。仄かに漂ってきた酒の香りに白真白が声を上げる。

「皆、鼻と口をふさいでっ！　『乾杯の序曲』がくるよっ」
「おらぁっ！　こいつで拡散してやる！」
　彼女の警告にならい、口元を塞ぐ一同。春彦は歌に対し旋風を虚空にはなって相殺を狙う。
　お酒の香りは薄める事が出来たものの、効果を相殺する事は出来なかった。それでも、春彦の周辺に居た者たちは【虚脱】からどうにか逃れられたようだ。
　だが、オパールの薔薇や蝶晶の風衣などでBS耐性を上げていた真白や元々BSに強めな拳闘士たちでも油断すれば【虚脱】を受けてしまうかもしれなかった。
　どうにか耐えた真白が見たのは、【虚脱】を受け、膝を突く修。彼には左右がすかさずBS解除を施している。その後の方では円が亮に支えられている。他にも前に出ていた夏朝やアカリなどちらほらと【虚脱】を喰らう者が続出した。
「コイツはかなりきついな……」
　楓も【虚脱】を喰らってしまい、立ち上がれずに歯噛みする。
　しかし、幸いにも治癒士トリオは全員無事だった。
「BS解除のスキルは積んでいるよな？」
「勿論」
「一気に行くよ！」
　遥斗の問いにエスカルゴと左右は頷き、分かれて広範囲にわたるBS解除スキルを発動させると、遥斗は続けて前衛側へと治癒魔法を発動させ、目立たない位置へと移動した。
　己の体力や魔力と相談した上で状況を把握するのは難しい。だが、やらねばならない。
　回復が進む間に、動ける者たちが攻撃を担う。春彦が剣を構え、静かにユヅキールを睨みつける。

(# ﾟДﾟ)　＜やるぞコラァ！

　きぐるみさんも引き続き棍を振るい、前衛陣がユヅキールへと向かっていく。真白が命中箇所を足場に勢いを保てる疾旋脚を見舞えば、亮が土属性魔法で用意した足場を使い、九月がトリッキーな攻撃を見せる。
　かと思えば重戦士のサキリが鎖鎌で引っ掛けようとし、隙を突いて都や修が矢を放って援護。そして碧南が不死鳥の剣を振るってユヅキールに【火傷】を負わせた。

　そんな中、夏朝は、何人かのメンバーと目配せをしていた。前哨戦の前に、彼女は、とあるスキルについて話をしていたのだ。
「……使う？」
「あぁ、もうじき第二フェーズに行くだろう。……そっからダメージロールをどんどんまわしていくぜ」
　夏朝の言葉に楓がにやり、と笑って頷く。夏朝はぐっ、と猫の手ウォーハンマーの柄を握り締めた。

『ふん、ちょっとは楽しめそうじゃないか……』
　不意に、ユヅキールが笑う。同時に、僅かに翼が広がる。
（……第２フェーズに、突入する！）
　真白は次にくる技が何かひらめき、注意を促す。

　とりあえず、第１フェーズはここで終わった。だが、ここからが本番である。冒険者達は、気を引き締めて攻撃に備えた。