輪廻傀儡のグランギニョル｜リアクション

輪廻傀儡のグランギニョル

●終幕～或る夢の終わり
　――そして抗う人形たちは、導かれるようにしてはじまりの間へと集う。悠月とアカリが剣舞を演じてから少しの後、螺旋階段を駆け上がる者たちは、あくまで戯れ続けることを選んだ醒夜子の無垢な姿と対面した。
「虚しい？　何故？　私の望みは、お兄さまお姉さまの人形達と、永遠に劇を繰り返すこと」
　逃げながらも幾度となく彼女と刃を交えた梢は、徐々に動きが鈍くなっているようだ。裁縫針を支えに、それでも何とか醒夜子を迎え撃とうとするが――其処で刀が梢に加勢し、切れ味を増した刃で醒夜子に斬りかかった。
「――行け！　俺の分まであいつを――」
　刀の声に背を押された一行は、開け放たれた重厚な扉をくぐって玉座の間へと足を踏み入れる。と、其処には糸の切れた操り人形のように崩れ落ちたアカリと――彼を無感動に見下ろす悠月の姿があった。
「俺は人となった。故に主……お前に叛旗を翻す」
　ぱちぱちぱち――乾いた拍手を送る人形師へ向かい、悠月はサーベルの切っ先を突きつけ厳かに宣言する。これには「ほう」と人形師も面白そうな声を上げたが、彼は何処までも超然と構えていた。
「……それもまた一興。但し、やれるものならばね」
　――そう。人形師の『呪縛』は余りに強く、刻印をひとつ貫いた位で解けるものでは無い。彼と対面すると同時に酷い頭痛が襲い掛かり、身体は鉛のように重くなる。
（だが、間接行為ならば……！）
　しもべの鴉が居ないかと辺りを見回した修は、手にした鎌を回転させて投げ、頭上のシャンデリアを落とそうと試みた。しかし、明確に主を傷つける意思を持って武器を振るうのであれば『呪縛』は人形を苛むもの。
「っ……！」
　修の腕は己の意に反して硬直し、彼はそのまま力を失って床に膝をつく。そして軌道を外れた鎌はと言えば、黒曜石の柱に当たって離れた床の上を転がっていった。
「さぁ、ゴシュジンサマ、舞踏会の時間ですよ？」
　――けれど凛は諦めない。ちらりと紗矢香に目配せをしてからナイフを投擲、玉座の背に当たったそのひとつが甲高い音を立てた瞬間に、飛び出した紗矢香は玉座ごと人形師をなぎ倒すべく槍を振るった。
（今だよ、アリーセちゃん！）
　二人なら羽ばたけると、凛の想いを受け止めたアリーセは信じている。砕かれた玉座からひらりと着地した人形師目掛け、彼女は素早くマントを投げつけて視界を塞いだ。青薔薇のレイピアを疾風のようにアリーセが振るう中、人形師の注意を惹きつけていた悠月は、背後で倒れたままの相棒――アカリに向けて合図を送る。
「囮になってやってるんだ、きっちり決めろ」
　――その澄んだ声を受けて、倒れていた筈のアカリが息を吹き返した。否、彼は悠月と打ち合わせて演技を行い、倒れたように見せかけて反撃の機会を窺っていたのだ。
「ああ……俺がこの手で、主の作り上げたこの舞台に、幕を下ろす」
　ナイフを握る手は情けない位に震えていたが、アカリは勢いをつけて背後から人形師に硝子の刃を突き立てた。――けれど、まだだ。仮面の下で底知れぬ光を宿す人形師へ、止めを刺すべく立ちはだかったのは紗矢香。
「不思議な出来事を体験するのは好きだけど、良い様に扱われるのは大嫌いよ」
　――どうか、私に力を貸して。幼馴染の姿を強く思い浮かべながら、彼女は悪夢を終わらせるべく硝子の槍を振るった。
「人形劇に終幕を……。春彦は私が元に戻す」
　毅然と言い放った紗矢香を見上げ、人形師は成程と満足そうに笑う。流れ出る血は、まるで薔薇の花弁のようで――己が最後に倒されると言う結末すら、彼にとっては満足のいくものであったようだ。
「輪廻の果てで、遂に帰るべき場所を思い出したのか。……縁とは素晴らしいものだね」
　遠くから聞こえてくるのは、人形劇の終焉を告げる鐘の音。やがて世界は静かに崩壊を始め、屋敷や人形――この舞台を構成する道具たちは、花弁となり空へ還っていく。
「だが、愛しい子らよ。私は私なりに君たちを愛していたよ。この想いも記憶も、この世界の消滅と同時に失われるのだろうが――」
　――これは、人形が見たただの夢。最後にそれだけを呟いて人形師は倒れ、広間の外で激闘を演じていた梢たちにも、決着の時が訪れていた。
「……楽しかったです。ちゃんと帰してくれるなら、また遊んでもいいかなって程に」
　世界の終わりを感じ取った彼女は、崩れ落ちる天井を見てぽつりと呟き――その足元には動きを止めた醒夜子が、夢の続きを見ているように瞼を閉じている。
　人形師も、きっと何らかの想いがあって自分たちを人形にしたのだろうけれど。帰りましょう、と梢は空に向かって手を伸ばした。
（……おやすみなさい。そして、さようなら）

　――黒薔薇の香りが一瞬だけ鼻をくすぐったが、それも次の瞬間には記憶の海に沈んでいく。
　これは輪廻傀儡のグランギニョル。人形たちが束の間に夢見た、刹那と永遠の魂の物語。

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あとがき

担当マスター：柚烏
ファンレターはマスターページから！

柚烏と申します、この度はシナリオへご参加頂きありがとうございました。
アクションから伝わってくる皆様の華麗な姿や、優雅でいて悪夢めいた人形劇を自分なりに演出出来ていれば、と思います。

ゴシックっぽいバトル物を……と考えたシナリオでしたが、人形と言う設定にしたのは『劇』であると割り切る為。
あとは、バトルロイヤルの血生臭さや殺伐さを少しでも和らげる為、と言う理由もありました。
お芝居を楽しむ感じで、さらりと楽しめたのなら幸いです。

なお、其々が戦う人形のタイプはダイスを振って決定いたしました。
大変な事件に巻き込まれましたが、これも夢のひとつ。それでも、皆様の思い出のひとつとなれば嬉しく思います。

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