輪廻傀儡のグランギニョル｜リアクション

輪廻傀儡のグランギニョル

●開演～人形たちのとまどい
　時すらも歪み、永遠の生と死が繰り返される中――黒薔薇の敷き詰められた匣で、人形たちは此度の目覚めを迎えることとなった。
　黒い太陽が空を焦がし、天の星屑は眩暈を覚える程に瞬きを繰り返して。深紅の幕が上がり、ただひとりの主の為に、操り人形の恐怖劇は幾度となく演じられるのだ。
『その身体に宿した魂の輝きを私に見せておくれ』
『恐れることは無い。私の手によって永遠に、生と死は繰り返されるのだから』
　芝居がかった仕草で、朗々と開演を告げる主――『人形師』の元から鴉たちが飛び立ち、彼方の鐘楼からは厳かな始まりの鐘の音が響く。
　――しかし、粛々と主の命に従う人形たちが居る一方で、己の境遇に違和を感じた者もまた、少なからず存在していたのだ。
（俺は……意思のない人形……？）
　ひんやりとした四肢は、まるで白磁のような艶を帯びているが、在る筈のぬくもりを感じない――来島アカリの桃色硝子の瞳が捉えたのは、球体関節を持つ自身の足であった。
　――違う、と心の奥が軋みをあげる。しかし、その声無き叫びも、屋敷に漂う黒薔薇の香が瞬く間に塗りつぶしていった。ああ、身体が重くて、感覚は無いのに匣も空気も冷たくて――何も、思い出せなくて。
「はい、ご主人様の仰せのままに……」
　一方で、雨寺凛は恭しくドレスの裾を摘まんで一礼してみせたのだが、自分の唇が紡ぐ恭順の言葉にふと心がざわめいた。
（……？　なんだろうこの感覚……なんだか窮屈というか……）
　いびつな永遠、淡々とした生と死、予定調和じみた人形劇――そんな変化の無い世界を、自分ならばぶち壊してやりたいとでも思ったのか。
　そう、暴力的なまでに激しい音楽を奏でながら、ありったけの想いを込めて叫ぶように――。
（そうか、微かだけど解ったよ）
　――きっと自分は、もっと自由だった筈なのだ。故に、この状況は凛にとって息苦し過ぎて。彼女は他の人形たちと共に広間を退出する際、ちらりと横目で人形師を見遣って呟く。
「縛られるのは好きじゃないんだ。抗ってみせるよ、ゴシュジンサマ」

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