風が吹けば、ののこが笑う｜リアクション

風が吹けば、ののこが笑う

「チョコレート美味しかったですなの！」
　明里は食べ放題を満喫した後、さらにドーナツショップでたくさんのドーナツを買い込んで店を出た。
「さて、今日はこのくらいにしとこうかねぇ」
　明里が外に出ると、偶然、瓢がそんなこと言いながらどこかへと歩き出すところだった。
「？」
　当然ながら明里にその言葉の意味はわからない。気にせずルンルン気分で歩き出す。
　気のせいか、風が止んで寒さが和らいだ気がした。
「むむっ、悲しそうな顔の人を発見したのですなの！」
　トボトボ歩いてくる人の顔があまりにも絶望に染まっていて、明里は彼女を笑顔にするべく向かう。
「どうしたなのなの？」
「……」
　元気よく声をかけたものの、碧南は死人のように虚ろな目で見返してくるばかりだった。
「笑顔になるためには、美味しい食べ物が必要なの！」
　箱の中からドーナツを取り出して、碧南に差し出す。
「……あ……り、が……と……う」
　碧南は乾いた笑みを浮かべて、それを受け取った。

　十分ほど前――
　新作乙女ゲームを取り扱っているショップに来た碧南は、満を持して店員に引換券を見せた。
「くーださいなっ♪」
「……お客様」
　しばらくの確認の後、店員は言い含めるようにゆっくりと言った。
「この商品は発売が一週間後となっておりますの」
「――はい？」

　　　　　　　　　　な
　　　　　　　　　　に
　　　　　　　　　　を
　　　　　　　　　　言
　　　　　　　　　　っ
　　　　　　　　　　て
　　　　　　　　　　る
　　　　　　　　　　ん
　　　　　　　　　　だ
　　　　　　　　　　こ
　　　　　　　　　　の
　　　　　　　　　　店
　　　　　　　　　　員
　　　　　　　　　　は

「ですから――」
　店員の説明に、碧南の心はゆっくりと引き裂かれ、壊されたのだった。

「？　一週間後にもらえることに変わらないないのなのよ？」
「それまで生きてるかしら」
　すっかり落ち込んでしまった碧南は、促されるまま明里に洗いざらい打ち明けていた。
「でも、ありがとう。少し楽になったわ」
　人の優しさに触れて、いくぶん生気が戻って来たらしい。碧南は歩き出した。
「あんな店員もいれば、貴女みたいな人もいるのよね……」
　ちなみに店員は全く悪くないのだが、そうでもしないと碧南の精神が保てないため、心の中で悪の権化と化しているようだった。
「頑張ってなの！」
　フラフラと去っていく長身の影に、明里は手を振った。
「やっぱり笑顔には美味しい物が必須なの！」
　確信とともに言う明里。今の会話の最中、すっかりドーナツは無くなってしまっていた。
「あかりはもっともっと美味しいものを探すなの！」
　さらなる笑顔のために、明里は手近な喫茶店に入っていく。