風が吹けば、ののこが笑う｜リアクション

風が吹けば、ののこが笑う

「ま、待ってー！」
　竜巻のような風に吹き飛ばされたソレを追って、羽生碧南が必死に駆ける。
　どれだけ必死かというと、顔面蒼白となっていた。
　追っかけているのは、ただの紙ではない。
（あれがないと、私のゲームが……！）
　碧南が一日千秋の思いで待っていた、新作乙女ゲーム「Forbidden Lover」の引換券だ。
　情報誌で目にしてから、その雰囲気に思いっきりノックアウトされてしまった碧南は、思い切って特装版＋初回封入特典付きを予約していた。
　そして連日、「早くこの日が来ないかな」と待っていたのだ。
　おかげで今日まで、友人から「ぼーっとしてる」とか「急にニヤニヤして気持ち悪い」と言われた。
　昨日の夜も、よく眠れなかった。
　それもこれも今日、解決する！
　ゲームを買いに出かけるだけだというのに、なぜかデートに行くかのごとく（ある意味間違いではない）気合を入れて、手持ちの服をコーディネイト。高身長なりに気を遣い、ユニセックスながらも上品な物を選んだ。
　さあ出発と、桜花寮からシーサイドタウンのゲームショップまでの道のりをウキウキと歩いてきた碧南は、信号で止まった折、財布の中で大事に大事に保管してきた引換券を、まるで宝くじの一等でも手にしたかのように取り出してニマニマしていた。
　そこを風にさらわれてしまったのである。
（失くしたら、私死んじゃう！）
　死にはしないだろうが、脳内で自動再生されるプロモやスチルやらボイスやらを必死にこらえ、「あの世界に逝くのはゲームを買ってから！」と言い続けてきたのである。
　たぶん鬱になるか熱を出すかして、しばらく死人同然になるのは明らかだった。
「誰か、それを捕まえて！」
　前方に現れた通行人に、とっさに声をかける。