オニンピック in 魔界｜リアクション

オニンピック in 魔界

●男子目玉卓球
　
「中々面白そうな余興だねぇ、勝てば何かもらえるのかい？」
　瓢は男子目玉卓球にエントリーしていた。
（どんな手使っても金メダルはいただくよぃ）
　優勝という名誉に価値を見出したわけではない。
「体操女子は真境名アリサの優勝だ！　はい買った人、配当金ね。オニンスカヤに賭けた人は残念だったねえ♪」
　スポーツドリンクを売り歩いていたかと思えば、賭博の胴元になってちゃっかり荒稼ぎしている瓢。
　稼ぐのも悪くないが、瓢の喜びは混沌の喜劇であった。
　商売をしながら対戦表をチェックした瓢は、強敵と言われる対戦相手に特別なスポーツドリンクを渡していた。
　下剤入りである。
（早々に潰しておこうかい）
「それでも尚立ち上がるなら卓球で勝負してやるさ」　
　相手の鬼はトイレを往復して真っ青に……と言っても青鬼だったので顔色の変化はわかりにくかったが、冷や汗をかいていた。
　それでもあきらめずに、あたりの草を食べて薬にし、試合に臨んできた。
「無理しなきゃいいのにねえ」
　ヘラヘラ笑う瓢は、さらに仕掛けをしている。
　目玉が増えるタイミングを見計らって、こっそり色を塗った鉄球を紛れさせた。
　相手の土手っ腹にめがけてスマッシュ！
「ウオオオーン！」
「あっ、うっかり短剣も投げちまったねえ、てへぺろ」　
　鬼の目にも涙、相手の鬼は腹に一撃を食らって思わず遊園地の的当ての鬼のように諸手を挙げ、叫び声をあげた。
　タオルが投げ入れられ、瓢の勝利となる。
「ウオオオオー！」
　観客席に巻き起こる怒号と歓声。
「地獄の鬼すら反吐吐く所業目指すよい」
　スポーツマンシップはないのか？　
　だが目玉卓球は格闘技でもあった。
　瓢の戦法はオニンピック向けだったと言える。

　初戦を楽に勝ち上がった瓢は、二戦目に進んだ。
　これに勝てばベスト８だ。
（勝負より相手のタマ獲る勢いでかかればいい脅しになるかもねぇ）
　そう思った瓢だが、相手のバンダナをした赤鬼に渡しておいた下剤入りスポーツドリンクが効いている様子はない。
「あれ、飲んでないのかねえ」
「あんなマズイものは飲まん」
　対戦相手の赤鬼の口から赤く染まった牙が覗いた。
「まあいいさ、薬に頼らなくても手はあるさね」
　瓢は、ぬらりくらりと目玉を打ち返しながら、相手の意表をついていきなり際どいスマッシュを浴びせる。
　目玉が分裂した！
「おっと手が滑ったよい」
　鉄の玉を、腹めがけスマッシュ！
　だが相手は、打ち返してきた！
　それは瓢が続けて投げていた短剣に当たり、瓢のコートに落ちた。
　必死に返そうとする瓢だったが。
「これも返すぜ」
　短剣が飛んできた。
「ぐはっ！」
　すんでのところで交わしたが、玉を打ち返すまでには至らず。
「タマ取られるのが怖くて目玉卓球ができるか、ってんだ」
　相手がバンダナをはずすと、額には三つ目の目があった。
　その目玉をぽろりとはずし手に取る。
「こっちから行くぜ！」
「目玉が惜しくないのかねえ？」
　しかしその目玉は、瓢が打ち返そうとするとするりとコースを変えて逃げるのだった。
　惜しくも瓢は二回戦敗退となった。
「混沌な喜劇ではあったねえ、しかしもう一歩攻めたかったよい」
　とりあえずおわんに水を入れて目玉を浮かべ、写真を取る瓢であった。
　
　

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