誰もいない街｜リアクション

誰もいない街

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　時子が星ヶ丘寮に戻った時には、空には薄く星が現れようとしていた。
「ねこでんが動いていて良かった」
　いつ来るかわからないので諦めようとしたところに、車両が現れたのだった。誰も運転していないのに、止まったり動いたりするのが不思議だった。自動運転なのかもしれない。
　しかしそのおかげで、時子は日暮れ前に寮へと着いていた。
「確かここに、今は住んでるはず」
　どこからか鳥の羽ばたく音が聞こえた。はっとして見回すが、鳥の影らしきものは見当たらない。
「ヨタカさん……？」
　ただ、羽ばたく音は時子の中に変化をもたらしていた。
「そういえば、雷鶏さんも一緒に住んでました……」
　思い出したのは、共に暮らす存在のことだけではない。
　今日歩いて訪れた場所が線によって結ぶ付き、時子の記憶を立体的にしていく。
「皆さんのところへ帰りませんと」
　姿が見えない同居人たちのことが心配になって、足早に自室へと入る。
　部屋では、写真のアルバムが月の光に濡れていた。
　吸い込まれるように時子はアルバムを手に取った。めくっていくと、五十嵐尚輝の写真や『ヨタカさん』たちが寄り添って寝ている写真、他にも鳥たちを撮った写真がある。
　思い出の詰まった写真がたくさんあった。
　そして近くには、時子が先生からもらったバレッタが、月にきらめいていた。

　帰ってきた自宅は夕闇に沈むようにひっそりとしていた。
　修が不審に思い、その理由に思い至った。家族や使用人どころか、いつも迎えに来てくれる犬猫たちがいないのだ。
「この世界は寂しすぎるな」
　帰ってきた実感はあるが、まだ足りない。
　何より彼女がいない。
　修は学校で取り戻した記憶を頼りに部屋を探した。やがて、冬物の収納場所からマフラーを手にする。
これが、もらった物のはずだ。
　机上にあった彼女との写真を手にし、月のよく見える窓へと移動する。
「これも用意しないとな」
　一度思い直して、犬や猫たちが好きだったものを傍らに置く。
　そうして、月を待った。

「何だろう……とても大事な物の気が！？」
　夏朝はその日記を手に取った。皮張りで、金色の枠がついている。
　綺麗で、可愛くて、豪華な外観だ。
　アニメに出てくるような可愛めの魔導書にも見える。
　表紙には紅い宝石を持った金の猫が、裏表紙には青い宝石を持った銀の猫が、背表紙を境に対になるように丸くなって寝ていた。
　二つの鍵は交換日記のための物だろう。六芒星の上に金の太陽と銀の三日月の装飾がある。二つの鍵の違いはと言えば、差し込む側に近い六芒星の端点で光る宝石が、赤と青ということだ。
　夏朝の目に、やがて理解の色が灯っていった。
「僕、誰かと交換日記、してた気がする」
　誰だろう？
　思い出せないが、さきほどの探索で見た写真の中にはいなかった気がする。
　だが、とても身近で、大切な存在だ。
　そこまで思った時、夏朝は自分の胸元を見て息を呑んだ。
　目前の二つの鍵と同じ、端点に黄金色の宝石を嵌めた鍵がある。
　窓から月が見えていた。夏朝は胸元の鍵を急いで外すと、二冊の交換日記と三つの鍵を月へとかざした。