誰もいない街｜リアクション

誰もいない街

第三幕、元の世界へ
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「茶道をやっていたのか」
　なんとなく染み付いた動作で茶を淹れる自身に驚きながらも、サキリは作法に則り茶を飲んだ。
　そして心静かに瞑想する。
　深く内面に沈み込む意識に、求めるものがやがて触れてきた。
「そうか、僕はこの島に来る前は裏社会の人間で、多くの人を不幸にしてきたんだ」
　それが、罪悪感の正体だったのだ。
　人を不幸にする側から幸せにする側の人間になる。
　その為に、僕は従姉弟に連れられこの島にやってきたのだ。
　サキリは目を開けた。
　いまや、失くした記憶の多くを取り戻していた。
「姿は見えなくても、他の人もこの『誰もいない世界』にいる」
　そして、ヤツもいる。
　ヤツを倒さないと、この世界から帰還する時に妨害を受けるかもしれない。

　サキリは立ち上がった。薄暗くなった空に蝉の鳴き声が聞こえる。その空を睨んで彼は走った。
　行く手を遮るように、影の異形たちが現れる。
「気づかれたか」
　サキリはろっこんを発動した。影法師の爪を瞬間移動で回避する。獲物を探す異形の背に出現したサキリの手でナイフが躍った。
「たとえ記憶がなくても、刃物達は覚えていてくれる」
　空間を自在に動き、的確に急所を切り裂く術を。
「そして記憶喪失も、神魂の怪物が引き起こした精神攻撃の一種だった！」
　旋回する刃が異形の頭部を切断し、もう一方の手で投げたナイフが別の影の心窩をえぐる。
　短い時間で、部室から続く廊下に影法師たちの骸が横たわっていた。
　サキリは天井を見上げ、瞬間移動する。
　降り立った屋上に、島中に蝉時雨を響かせていた存在がいた。
　体長数メートルにもなる、セミの宇宙人。
　身体中が傷ついていたが、サキリを見るその視線には強い悪意が灯っていた。
「最後の一体がまだ生きていたのか」
　サキリが瞬間移動しようとする。
　その寸前、巨大蝉から衝撃波が迸り、サキリを空高く吹き飛ばした。