湯煙に、咲かせてあげよう冬花火｜リアクション

湯煙に、咲かせてあげよう冬花火

●真央は旅館を楽しむのだ！
　さて。デートや家族旅行、取材旅行に一人旅と様々な楽しみ方を見せる一方で、そんな彼らを眺めて楽しむ後木真央がここにいた。
　ここにっていうか、旅館の屋上にいた。
「うわー！　見渡す限りほっとんど海なのだ！　ビックリなのだ！」
　さすがに元高級旅館。見晴らしは最高だ。
「今日は知り合いがいっぱい居たみたいだし、まずは遊びにいってみるのだ！」
　ぴょんと台から下りると、真央は走り出した。
「早速朱蘭ちゃんの所にいくのだー！」

「朱蘭ちゃ……あっ」
　卓球場に気配を感じた真央は、引き戸を開いてそっと閉じた。そっ閉じした。
　なんか、和服を大きくはだけさせた朱蘭が竜也に抱きかかえられていたように見えたのだ。
「こ、これは邪魔したらダメなのだ。おデェト中だったのだ……」
　しかも察するにすごくいい所だったっぽい。
「なら市子ちゃんの所にいくのだ！　ここに来るのを見かけたのだ！」

「市子ちゃ……あっ」
　廊下で市子を見つけた真央は、咄嗟に柱の後ろに隠れた。
　なんか、頬を赤らめて息を荒げた市子が、圭花に抱きついているように見えたのだ。
「これはもっと邪魔したらダメなやつなのだ……申し訳なさで死ぬところだったのだ……」
　がっくりと両手を地に着ける真央。
「どういうことなのだ。バレンタインはまだ先なのにおデェト様ばっかりなのだ……」
「何やってるのです？」
「ハッ」
　声をかけられて、真央は復活した。
　顔をあげるとそこには美咲紀。と、修とねむるが居た。
「良かったのだ！　カポーじゃない知り合いがいたのだー！」
「意味の分からない喜び方だな」
　わーいと言いながら抱きつく真央を、修はサッと回避した。

　割とカップルばかりじゃないぞと気づいた真央はバイキング会場へＧＯした。
　前を老夫婦と手を繋いで入っていく智瑜の姿。
「あれはあれでお邪魔っぽいのだ。けど楽しそうでなによりなのだー」
　わーいと言いながら会場へ入り、ストンと席に着く。
　席について、目の前に葉月がいたことに気づいた。
　いや、別に見えなかったわけではないが、あまりにリアクションがないので座るまで対面になっていることに気づかなかったのだ。
「ハッ！　もしかして誰か座るとこだったのだ！？」
「別に、誰も来ないわ」
「そ、そうなのだ……」
　微妙に口調がおかしいが、あえて気にしない真央である。
　真央は手を合わせて叫んだ。
「ここはバイキングなのだ。死ぬほど食べるのだ！」

「く、くるしいのだ……」
　真央は自室の真ん中で横たわっていた。
「たべすぎたのだ……真央ちゃん動きたくないのだ……」
　この後は花火大会があったはず。
　花火と言えば会場まで歩いて行かなきゃならないし、なんなら狭い場所で立ち見しなくてはならない。
　が、ここは違う。
　ドカンという音と共に、夜空が七色に爆発した。
「おおっ！」
　真央は身体を起こして。部屋の窓を開けた。
　窓の外はすぐに海というこの旅館。花火をあげるのはその海からなのだ。
「これは贅沢なのだ……」
　夜空に開く無数の花火を見上げながら、真央は『うわー』と『ひゃー』を連呼した。
　その夜、思いの外ぐっすり眠れたのは、言うまでも無い。

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