湯煙に、咲かせてあげよう冬花火｜リアクション

湯煙に、咲かせてあげよう冬花火

●卓球で、ちょっといいとこ見てみたい
　さて、一旦後回しにした卓球場での一コマをお送りしよう。
　竜也と朱蘭が一通り卓球遊びをして風呂へ向かったその直後あたりで、風呂から上がってきた修たちは卓球場へやってきていた。
「俺は誰にも負ける気は無いぞ。さあ、誰からだ」
　ラケットを構える修。
　対するは後木真央である。
「受けて立つのだ！　てやーっ！」
　意味は無いがジャンピングサーブ。
　急速な回転のかかった弾が修のコート中央で直角に跳ね、脇へとゆるやかに飛んでいく。
　だが修は迷うこと無く回転ステップ。ラケットの裏側でもって真央へと打ち返した。
　慌ててボールを追う真央。
　が、これは決まったと自分で思っていたのか踏み込みが遅れてラケットの十センチ先をボールが抜けていった。
「こ、交代なのだ！」
　その場にいたねむるにバトンタッチ。
　ねむるは頷いて、彼のラケットを受け取った。
「宿命の対決だね。くらえ――伝家の宝刀！」
　ボールをかっこよく二本指で挟むように持つと、ねむるはラケットを天高く掲げ、滝のように叩き込んだ。
「しゃがみ込みサ――はぐっ！？」
　がごん、というちょっと嫌な音がした。
　何が起きたのかは、額を押さえてぷるぷるするねむる君を見て察して頂きたい。
「ねむるちゃんの必殺サーブが破られたのだ……」
「いや、やぶってはいないけど」
「なら次は、私の出番ですね！」
　浴衣姿の美咲紀が、やけにつやっつやした顔でラケットを構えた。
　嫌な予感がする。
　半歩下がった修に対し、美咲紀は鋭いサーブを放った。
　まずは堅実に打ち返す。
　美咲紀は素早い判断で追撃。
　左右に振って体力を減らそうとする修と、動き回って相手のミスを誘う美咲紀という勝負に発展していく。
「次の一撃で決まるのだ……」
　呟く真央に、ねむるはゴクリといきをのんだ。
「そこですっ、必殺――！」
　美咲紀は激しいモーションからの豪快なスマッシュを繰り出した。
　なんというパワー。
　ボールは通常の何倍も激しい音をたててコートを跳ねていく。
　というか。
　ラケットが跳ねていく。
「――！？」
　咄嗟にかわす修のこめかみ脇数センチを、縦回転したラケットが通過していった。
「…………」
「…………」
　振り切り姿勢のまま固まる美咲紀。
　さすがの彼でも恐怖を感じたのか固まる修。
「ご、ごめなさーい！」
「いや……誰にでもミスはあるし」
　そこへ、何の騒ぎかという顔で三宅葉月が卓球場にやってきた。
「すごい音がしたけれど」
「いや、何でも無いんだ。卓球をしていただけで」
「良かったら一緒にどうですか？」
　美咲紀にラケット（さっき飛んでいったやつ）を突き出され、葉月は数秒ほど瞬きをした。
「やるわ」
　ラケットを受け取り、修の向かいに立つ。
　構えるというより、ラケットを持ってただ佇むと言ったフォームだ。
　だが修は。
「（彼女、できる……）」
　試しに放った修のカミソリサーブ（鋭角なカットによってボールをバックスピンさせるサーブ。普通の人はつんのめる）にまるで反応せず、ゆるやかに上がったボールを真正面からはじき返してきた。
「煽りには乗らないか」
　大きく横に振るべくコートのギリギリを狙って打つ修。
　対して葉月は踊るようにステップを踏み、またも真正面にはじき返した。
　それから暫く、修のトリッキーな動きと葉月の冷静な打ち返しによるラリーが続き……。
「ここまでのようね」
　ある所でピタリと葉月は動きを止めた。
　その横を抜けていくボール。
　長い髪に空気を入れるようにかきあげて、葉月はラケットを置いた。
「さすがに、動き疲れたわ」
　きびすを返して卓球場を去って行く葉月の姿に、思わず真央たちは拍手を送った。

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