寝子高七不思議シリーズ：キサラギ君｜リアクション

寝子高七不思議シリーズ：キサラギ君

「これが新しいガイシャ？」
「2年3組、嘉月兔ネヴィア先輩。どうやら彼も『キサラギくん』の噂を追っていたようだけど」
「まぁ顔と体格は一応良い部類ですし、噂の襲われる条件にはあてはまっちゃうかんじでしょーか？」
「そうね……。そしてこの散乱したチョコは彼が護身用に持っていたと推測できるけど」
「12個入りのチョコが12個そのまま残っているね」
「つまり野郎からのチョコはノーセンキューってことでしょうねー」

　2年生の下駄箱前で倒れている男子高校生が見つかったという情報は、放課後校内に残っていた生徒たちの間にあっという間に広まった。
　その中でいち早く現場に駆けつけたのが、ブリジット・アーチャー、新井すばる、屋敷野梢の三人だった。
　三人が辿り着いた時には既にネヴィアは丁度教員たちによって保健室に運ばれるところだった。
　梢はスマホを取り出し某人物へと連絡を飛ばす。

『キサラギくん、またやらかしたらしーですよ』

　それに対しての返信は驚くほど速く、そして簡潔にかえって来た。

『ぶっ潰す』

　教員が白目をむいたネヴィアを担架に乗せ保健室へ運んでいくのを横目に、ブリジットは散乱したチョコを一つ拾い上げた。

「キサラギくん、本当にいるのかな」
「馬鹿馬鹿しい、幽霊なんているわけないじゃない」

　すばるの言葉をブリジットはフンと鼻を鳴らして一蹴する。

「考えてみて、すばる。元々チョコをあげる予定の女子が、キサラギ君の噂を信じた場合チョコはいくつ用意するかしら？」
「さて、いくつだろうね。式にするなら、渡す予定のチョコ＋１じゃないかな？」
「その通り。もしキサラギ君に襲われなかったら、その＋１個のチョコはどこへ行くか」
「ボクのような彼女もいなくて、チョコとは縁遠い男子の元かな」

　指をパチンと鳴らしたブリジットにどこからともなくスポットライトが注がれる。
　彼女の推理はこうだ。
　
　キサラギくんの正体は、チョコを貰うアテがない生きている男子生徒。
　彼は義理チョコ欲しさに怪談を流行らせている。
　そして大方もれいび、もとい神魂絡み。

　ブリジットと会話しつつも巻き尺や虫眼鏡を使って現場を見分しメモをとるすばるの様子に、ブリジットはこめかみを押さえてため息をつく。

「……それで、すばるはどう考えてるの？　その様子じゃ私の推理に納得してないみたいだけれど」
「ブリジットさんの推理を否定するわけじゃないよ。きっとそれも鍵になる」

　メモをとった手帳をぱたんと閉じ、すばるはブリジットにウインクする。

「ブリジットさんの頭の中は論理が全てかもしれない。けど、ボクはそれだけじゃ物足りないんだよ。さぁ、調査を続けよう。大丈夫、君はボクが守るから」
「……全く、ちくわ咥えて騎士みたいなこと言ってもかっこつかないんだから。さて、このままここにいても埒が明かないわ。さっきの事件が起きた時、この下駄箱付近にいた生徒や教員がいないか調べに行くわよ」

　ブリジットがすばるを伴い下駄箱から去っていくのを見送り、梢はスマホをポケットにしまう。

「さて、私も動きましょうかね」

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