寝子高七不思議シリーズ：キサラギ君｜リアクション

寝子高七不思議シリーズ：キサラギ君

■華麗なる犠牲者

「キサラズ君？　……フン、推理力と顔の広さから寝子島の軍師と呼ばれるこの俺が、その奇怪な事件を華麗に解決してやろうじゃないか」

　キサラズじゃありません、キサラギです。
　そんなささやかなツッコミをする人間も生憎といない、閑散とした放課後の廊下。
　背筋をピンと伸ばし胸を張って堂々と歩く男子生徒、嘉月兔ネヴィアは下駄箱に向かっていた。

「この俺のスパコン並に明晰な頭脳が導き出した結論は、ズバリ！
よくある怪談話に便乗してチョコレートを食べようとしている腹をすかせた男性もしくは女性！
しかも敢えて不衛生な場所に置かれたものを好んでいるという点から、俺と同る……いや、相当な変態と見受けた！！」

　一人で朗々と推理を語るその様子も傍から見れば大分おかしい人の類なのだが、ネヴィアは気にしない。
　むしろ通りすがったものが白い眼で見てくれることをこっそり期待していたわけだが、誰とも擦れ違わず目的の場所に到達する。

「……奇妙だな、まだ部活や委員会をしている奴らもいるはずなんだが」

　ネヴィア以外の生徒や教師の気配が一切しない。
　あたりをきょろきょろ見渡しつつ、ネヴィアは去年男子生徒が倒れていたという噂の下駄箱の前に立つ。

「しかし、話に出てきた『ばれんたいんでー』ってなんだ？　最近店ではやたらとチョコレートをプッシュしてるし……。ああ、でも俺がチョコレートを買ったときの店員と周囲の客の視線……あれは実に良かった」

　海外育ちのネヴィアはそもそも日本のバレンタインデーを全く理解してなかった。
　検証の為チョコレートを買いに行った時に注がれた好奇の視線と小さな嘲笑。
　ツッコミ不在のままその時の様子を思い出して恍惚とするネヴィアの手が下駄箱にかかる。
　
　そして……。

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