花の妖精のお手伝い～枯れ木に花を咲かせましょう～｜リアクション

花の妖精のお手伝い～枯れ木に花を咲かせましょう～

【穏やかなお茶の席】

　星ヶ丘寮には個別の庭や花壇がついている部屋もある。
　御巫時子の部屋にも小さな庭がついていて、四季折々の花々が咲いているのだが、今の時期はやはり少々色彩が少ない。

　だからこそ楽しみにしていた福寿草だったのだが、今年はいまだ咲く気配を見せなかった。

「実家では毎年綺麗に咲いたのに……」

　縁側に座り、雷鶏を膝にのせて撫でながら、御巫はそっとため息を漏らした。
　
　土が合わなかったのでしょうか。でも、他に植えた花はきちんと咲きました。
　陽はしっかりあたっているようですし。なにが悪いのでしょうか。

　少しの間思い悩む御巫に、雷鶏が何かを指し示した。

「雷鶏さん、なんですか？　って、まぁ……」

　御巫はしばし言葉を失った。
　福寿草が植えてある場所に、黄色を基調にしたきれいな和服を着た小さな女性が立っていたから。
　まるで能の女形のように、透き通るほど白い肌に切れ長の目。血のように赤い唇。
　もし夜中に見たら、卒倒するかもしれない。怖いほど美しい日本美人。
　しかし、御巫を見る目はとても優しく、むしろ何やら口元を隠して頬を染めている。

　御巫は、居住まいを正して声をかけた。

「あの、もしよろしければ、こちらでお茶でもご一緒しませんか？」

　着物姿の妖精は恥じらいながら頷くと、庭を滑るように移動してきた。
　急いで小さな湯呑みを用意する。たしか飾り用の物があったはず。
　
　その間に妖精は縁側で正座して、庭を眺めていた。
　背筋が通った後ろ姿は本当に綺麗で、思わず見惚れるほど。

　どうやら雷鶏にもその姿が見えるようで、突きたくてしょうがない様子が伺える。
　しかし、同時に絶対につつけないでしょうね、とも思った。
　妖精には凛とした風格があったので。

　用意したお茶と茶請けを出しながら、その隣に腰掛けた。
　合わせて正座しようかなとも思ったけれど、ゆっくりしたかったので素直に足を垂らして座る。

　日向ぼっこしてお茶を飲みながら、とりとめなく話しかけてみた。

「あなたはもしかして福寿草に関係があるのですか？」
「なぜ福寿草が咲かないか、わかりますか？」
「あなたはなにがしたいのですか？」

　頷いたり首を振る妖精。
　どうやら話は通じるけれど言葉が話せないようだ。
　しかし、控えめながらも誠実に身振り手振りで応えてくれる。
　釣られて御巫が大きく身振り手振りを交えたら、口元を隠して鈴が転がるようなきれいな声で笑った。
　その様子がなんともおしとやかで可憐で、御巫も嬉しくなってくる。

「あの、もしよかったらなんですけど、私の膝の上に座りませんか？　雷鶏さんも一緒で温かいですよ？」

　思い切って誘ってみたが、妖精はちょっと困ったように微笑んで首を振った。
　雰囲気からして、礼儀作法を外したくないようだ。

　本当に和風美女って感じですね。綺麗で素敵な妖精さんです。

　凛とした横顔を見ながら、それでも御巫は抱っこしたい気持ちを抑えていた。

　時間としてはきっと2時間程度だっただろう。しかしまるで一気に時が進んでしまったかのように短く感じた。
　妖精は、その場で三つ指をついて頭を下げると、御巫にむけて小さく頷き、福寿草が植えてある場所を指し示す。

「あら？　福寿草が……」

　そこにはきれいな黄色い花をつけた福寿草の姿があった。

　お礼を言おうとして振り向くと、そこにはもう妖精の姿は見えなかった。
　小さなお茶会はこうして終わりを迎えたけれど、御巫はもう一度会えることを信じて呟く。

「また遊びに来てくださいね……」

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