「おかしいな〜」
回田 はつなは、大きな木の前で小首をかしげていた。
何度も立ち位置を変え、見上げたり覗いたり飛び跳ねたりする様子は、傍から見ると挙動不審だ。
しかし、回田自身は困ったように微笑みつつも、とても真剣だった。
「もう蕾くらい、ついていてもいいのに〜」
回田の前にある木は、河津桜とよばれる早咲のサクラ。
場所や天候によっては1月下旬から蕾がほころび始める品種で、しかも1ヶ月もの間咲き続ける。
鮮やかなピンク色がとても美しく、2月から3月にかけて観光地を彩る花だ。寝子島にも所々に植えてある。
回田が気にしているのは、島の河津桜の中でも特に立派な枝ぶりで知られている一本だった。
寝子島出身であり、島の四季の移ろいが大好きな回田にとって、この木は春の始まりを告げる大切な存在だ。
しかし、2月に入っても花が咲くどころか、蕾すらついていない。
本格的に咲くまでまだかかるのは事実だけれど、それにしても遅すぎる。
近くの住人や、木を管理している役所の人も手をつくしているのだが、結果は芳しくなかった。
「なんでなんだろう〜。……まさか枯れちゃったわけじゃない、よね?」
かろうじて笑みを浮かべながらも、肩を落としてしまう回田。
その時、彼女は何かを眼の端にとらえた。
河津桜の根本からひょっこり覗いた小さな顔。
それは桜の花びらでできた帽子と、葉っぱを縫い合わせたワンピースを着た、身長20cmぐらいの女の子だった。
ダークブラウンの髪は長く、瞳はサファイアのように青く澄んでいる。
蝶のような羽は持っていないけれど、これはいわゆる妖精さんではないだろうか、と思わずにはいられない姿だった。
「……えっと〜」
「……!」
思わず視線があってしまい、お互いに固まる。
妖精は首を傾げて回田を自分を交互に指差すと、指で輪っかを作って覗き込んだ。
なんとなく言いたいことが分かって、頷き返す。
「うん、見えてるよ〜?」
「!?」
慌てて木の影に隠れる妖精さん。しかし、スカートの一部がはみ出ている。
回田が諦めずに見つめ続けていると、おずおずと姿を現した。
はにかんで、スカートをつまんでお辞儀する。
なに、この子。人形みたいで可愛い〜!
思わず気持ちが昂ぶって、ろっこん『物言う落花』が発動した。
突然辺りに舞い散る花を見て、妖精のほうがビックリする。両手をふりながら、落ちてくる花びらをキャッチしようと何度も飛び跳ねた。
あまりに可愛かったので、回田は花びらを一枚拾って差し出してみる。
妖精はためらいながらも受け取って、まさに花がほころぶように微笑んだ。
その瞬間。風もないのに河津桜が揺れた。
「うひ〜! なにこれ、蕾が出てきた〜!」
先程まで一つもなかった蕾が、魔法でもかかったかのように生えてきたのだ。
まだ小さいし数も少ないけれど、つやつやと生命力にあふれている。
回田はしゃがみこんで、花びらを集めて遊んでいる妖精を見つめた。
もしかすると。いや、もしかしなくてもこの妖精の仕業だろう。
「
……妖精さんが喜ぶと、サクラも元気になるのかな〜?」
回田のつぶやきに、妖精はきょとんとして首を傾げた。
はじめまして。またはお世話になっております。今回のシナリオを担当する阿都と申します。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
シナリオガイドにご登場いただきました回田 はつな様、ありがとうございました。
シナリオにご参加くださったときには、自由にアクションをいただければと思います。
妖精シリーズ第2弾。(といっても正式にシリーズ化しているわけではありません)
前回は霧の妖精とのバトルシナリオでしたが、今回は花の妖精とのんびりほのぼのシナリオです。
【状況】
2月になった寝子島ですが、本来だったら咲き始めるはずの花が育っていない所があります。
これら一部の植物は、なぜか非常に弱っており、蕾をつける力もなくなったようです。このまま放っておくと枯れてしまうかもしれません。
どうやら神魂の影響らしく、普通の方法では植物に活力を戻すことができませんでした。管理している行政や地域の住民団体もお手上げの状態です。
しかし、あなたはその植物のそばにいる不思議な存在に気づきました。
この花の妖精(仮)を喜ばせると、なぜか植物が息を吹き返します。
なんとかして植物を蘇らせましょう! ……という名目で妖精と楽しい時間を過ごして下さい。
妖精は戸惑いながらも、自分を認識してくれたあなたに近寄ってきます。好奇心旺盛で楽しいことが大好きなのです。
手を変え品を変え、妖精さんを喜ばせてもいいですし、ただまったりと一緒に過ごしてもいいでしょう。
妖精は花のそばにいなくても大丈夫ですから、お友達と一緒に遊び歩くのもオススメです。
ただし、危害を加えるとあっという間に姿を隠してしまいますので、ご注意下さい。
以下、PL情報です。
1)対象となる花と妖精は以下の通りです。(どれも2月初旬から咲き始める花です)
■河津桜:ガイド参照。花言葉「想いを託します」
照れ屋で可愛らしい妖精。
■福寿草:縁起のいい黄色い花。花言葉「永遠の幸せ・祝福」
和風な感じの落ち着いた妖精。
■菜の花:食用にもなる黄色い小さな花。花言葉「豊かさ・財産」
セレブっぽい妖精。でも100円で買えるようなオモチャのアクセサリーが好き。
■クロッカス:花びらが大きく色も多彩な可愛い花。花言葉「青春の喜び、切望」
子供っぽい活発な妖精。食べ物に興味津々。
2)アクションには以下の点をお書き下さい。
■どの花の妖精と遊ぶか、選んで下さい。
迷ったときはコメントページのサイコロで!
(偶数・偶数=河津桜、偶数・奇数=福寿草、奇数・偶数=菜の花、奇数・奇数=クロッカス)
■どこでどんなふうに出会うのか、ご要望があればお書き下さい。
なければアドリブで設定します。
■その妖精とどのように過ごすか、お知らせ下さい。
3)出てくる妖精について
■妖精の喜びと開花の程度は3段階になっています。
1,蕾ができる。通常の開花時期より少し遅くなる。
2,蕾が育つ。蕾の成長が正常な状態に回復する。
3,目の前で開花する。
妖精を1回喜ばせれば、植物が枯れることは阻止できます。
■妖精は人間の言葉は理解できますが、話せませんし書けません。
身振り手振りで意思を伝えてきます。
■妖精はシナリオ参加キャラ以外の眼には見えません。
■妖精はものを食べたり飲んだりできます。
ほんの少ししか食べませんから、他人が見ていても気づかれることはないでしょう。
■妖精は日暮れとともに消えます。遊ぶ場所は日中に行ける場所のみです。
■性別は女性タイプが基本ですが、特に決まっていません。ご要望があれば、アクションにお書き下さい。
GAの場合はご相談の上、合わせて下さいますようお願い申し上げます。
■神魂の影響は「原因なく植物の活力が失われた」ことであって、妖精が原因ではありません。
むしろ妖精は植物を正常な状態に戻すために現れた存在です。
妖精を退治しても植物の活力は戻りません。
以上です。
それぞれの植物を助けることが最終目的ではありますが、妖精さんと楽しく過ごせば自然に達成できます。
お友達と一緒に、または妖精さんと二人っきりで、ゆっくりのんびりお楽しみ下さい。
ご参加、お待ちしております。
それでは、どうぞよろしくお願い申し上げます。