R&R Agency：File03：１９９９年からの使者｜リアクション

R&R Agency：File03：１９９９年からの使者

● ホールにて

　迷宮の入り口に近いホールでは、アフマド博士と白髪のタラが、鬼崎あやめとともに状況把握に努めていた。ファラオ・ハウンドのユリウスが、三人の周りをくんくんと鼻を鳴らしながら回っている。
　通信機からは逐一、各ルートの進捗状況が入ってきていた。あやめはスマホのメモやカメラ機能を使いながら上がってくる情報を統合・分析し、各班に伝える。位置把握システムも今のところ機能していて、大型のパソコンに似た機械のディスプレイに映る格子状の画面上では、光の粒が点滅しながら動いていた。この光ひとつひとつが、探索中のメンバーを示しているのは言うまでもない。
「ネコの道は分散したみたいですね。ハヤブサの道は崩落が激しいと報告が入ってますが、なんとか進んでいるそうです。ワニの道は二手に分かれたみたいですね」
　あやめは通信機に耳を当てながら、アフマドに状況を伝える。
「そうか。順調で何よりだ」
「ああ、ようやく叶うのね。『ピラミッドエミッション』……地球を救う、最後の希望」
　タラが感慨深げに言った。
「まだ油断は禁物だよ」
　アフマドはそう言ったが、明らかに気持ちが緩んでいる。この瞬間を、あやめは見逃さなかった。
　あやめは片方の手をタラの枯れた手にそっと添え、もう片方の手をアフマドの手に添えてから笑顔をつくる。
「これまでのご苦労、お察しします。ところで……」
　言いながらあやめはカウントしていた。１、２、３、４、５。＜リリスの微笑み＞が発動する。
「あなたたちはの本当の狙いは何ですか？」
　アフマドの瞳がぽおっと揺れた。タラも同じような表情になっている。魅了の効果が出ているのだ。
「地球を救いたい」
「『ピラミッドエミッション』計画を成功させて、隕石を破壊するの」
　二人はそれぞれに言った。これまで話した内容と変わらない。ということは、彼らの言うことに嘘はなかったということか。
　続けてあやめは質問する。
「では『地球滅亡教』についてもう少し詳しく知りたいのですが」
「滅亡教……教祖の名はカナン……」

　そのとき、ユリウスが牙をむいて低く唸った。
　「ぐ」「うわ」という叫び声に続いて、どさりと何かが崩れ落ちる音。
　アフマドとタラが我に返る。
「何の音だ」
「オマーとジャックは？　見張りをしていたはずよね？」
　立ち上がる間はなかった。一筋の青白いレーザー光線が機材を打ち抜く。火花が散り、白煙が上がる。
　次の瞬間、ホールに黒いベールを被った謎の集団が躍り込んできた。戦闘訓練を積んでいるらしく、まるで忍者のような身のこなしで、アフマドもタラもあやめもあっという間に後ろ手に捕らえられてしまう。
「『地球滅亡教』について知りたいと言ったかな、お嬢さん」
　ガスマスクのような覆面越しに、機械音のようなくぐもった声が耳元で発せられた。
　湧き上がる嫌悪感。けれど。
（掴まれている、ということは、私にも機があるということですよね）
　あやめは無理やり笑顔を作って＜リリスの微笑み＞を発動させようとする。だが、相手が一秒早かった。
「教えてやろう。あの世でな」
　鳩尾に衝撃。
　――あやめの意識は、それきり落ちた。