魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――｜リアクション

魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――

序：戦いも商売も似たようなものなのか

　魔界からの試練としてやってきたキーシェイロンが翼を広げ、ゆっくりと周囲を見渡す。

　――なかなか皆さん強そうですねぇ。
　　　しかし、皆さんもあまり近寄らない方がいいですよ？

　キーシェイロンはそう言いながら苦笑する。だが、それに反して周囲の空気が僅かに冷えたと感じるほどに、気配が研ぎ澄まされる。

（さぁて、始めようかな♪）

　戦闘のＢＧＭが掛かると同時にきぐるみさん（旅鴉月詠）はドラム『揺るがす大地』を展開し、アレンジし始めた。味方の士気があがるように、と願いを込め『戦人の行進』（士気上げ＋攻撃力アップ）を展開する。
「くるぞ！」
　御剣刀が注意を促した側からロングレンジ攻撃が彼の頬を掠めた。どうやら、キーシェイロンのロングレンジ攻撃は威圧からくるものらしい。
「皆様に神のご加護を！」
　上下左右はＭＰ大消費の補助魔法『神のご加護』を唱え、神楽鈴を鳴らす。清らかな光の輪が音と共に広がり、防御力と火傷への耐性を与えていく。
　本来ならがっつりとＭＰが減る魔法なのだが、耳に付けた綿雪のイヤリングの効果で消費するＭＰは少なくなっている。故に最初から飛ばせるのだ。
「合わせるぜ！」
　左右の鳴らす神楽鈴に合わせ、卯木衛がタンバリンを鳴らして『ラビット・ダンス』の魔法をかける。味方全員の俊敏性を上げる魔法で、意外と低コストである。因みに心なしかタンバリンも軽やかに叩ける気がする衛であった。
　そのお陰で他の冒険者達もすぐさま行動に移行できた。
（今回は忍者じゃないけど、属性が風の魔導士でこの格好なら、やること１つだねっ！）
　眼鏡を正してにっこり笑った戌貝二一は、腕輪とアンクレットを武器としている魔導士だ。彼女は白と紫を基調とした騎士とも見える衣装で身構え、さっそく両手を振るう。
「はいはーい！」
（仕掛けます！）
　カマイタチを飛ばす『サダクビアの刃』が、キーシェイロンへと向かう。それに合わせてしゅん、と薄野九月の手からナイフが飛び出した。死角から複数のナイフを放つ『シャドウストローク』である。
　風の刃とナイフをどうにか払うキーシェイロン。だが、棍を構え、オーラを飛ばして攻撃するスキル『気刃』が迫る。
（常に動くしかない。ヒット＆アウェイが基本だねっ！）
　七緒璃音はにっ、と笑いながらターゲットが自分になる前に離脱する。攻撃力と敏捷性を上げるスキル『虎の構え』を戦闘開始早々に使用しておいて良かった、と内心思いながら。

　開始前は「わぁい、すっごい見覚えあるこの光景すっごいデジャヴー……ってまーたSOCの中か！　なるほど２回目だな、今回も勝つよ！」と自棄になっていたものの、気合は十分だ。

　中衛位置。そこでは白真白が詠唱を続けていた。最初に炎の魔法で機雷っぽい『焼爆の球域』（詠唱は短く、魔力消費も威力も小さく牽制に使える）を展開し、自分の周囲に巡らせた後速攻で購入したエクスチェンジポーションとキャストポーション２本を飲み干し射程ギリギリで詠唱を開始していたのだ。
　詠唱速度を上げる『迅速』を使っていても長い詠唱を行うほどの魔法を試行するようだ。手足に装着した『制約の鎖枷』の所為で俊敏性は大きく下がるものの、代わりに魔法攻撃力はかなり上昇している。
（魔導士は結構ピーキーな育て方してたよなぁ。防御もＨＰＭＰも投げ捨てての一撃特化ってロマン構築だから大体の戦闘、詠唱が終わる前に終わっちゃってて）
　しかもボス相手でやっと終盤に打てる程でその上味方も巻き込む仕様だった為色々合ったらしい。現在は仕様変更で味方を巻き込む事はないのだが……。
（『小さなおまじない』はやった。時間は無駄にしたくない。今は、唱えるだけ！）
　そんな彼女の側にいたのは屋敷野梢。彼女は自分の視界が赤く染まって見えづらくなり、回避が低下する『クリムゾン・アイ』を使っている。このスキルの特徴はヘイトを稼ぎやすくなるだけではなく与えたダメージのうちHPの２０％を吸収するという所だ。