魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――｜リアクション

魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――

　周囲に亡者の手が召還される『ブラッディゾーン』を展開し敵味方区別なく動きが鈍くなってしまう範囲を作るという周到さである。２人の周りにはとりあえず近づかないほうが懸命だ、と全員が認識した。
　それだけではない。木属性の魔法を準備した黒兎都のトラップ系魔法もなかなかである。対象が魔法範囲に入った際茨を発生させて瞬時に縛り付ける『ソーンバイト』が何箇所かに展開されているのである。
（地味かもしれないけど、ね）
　すぐに別の詠唱ができるよう待機する都は手を組んだ二一と目を合わせる。２人はまだその時ではない、と判断し互いに敵の様子を探る事にした。
　しかしお気づきだろうか。今回はトラップ系スキルが３つも展開している。これがどのように作用するのかは……後ほどである。

「トラップがそこなら、まぁ、大丈夫か」
　そんな事を呟きながら片手剣を握り締めたのは夜海霧楓。手にした獲物がちょっと無骨なのは、土や砂を固めた片手剣だからだろうか？　手を覆う魔力の小手と相俟って土の魔導士らしく見える。
「それ、ディテールいいねー」
　近くにいた桜庭円が片手剣を見て言った。彼女の手には羅盤が握られており、どこからどう見ても風水士っぽい姿であった。
　彼女が準備した異常回復のスキルはちょっと特殊である。武器である羅盤を地面に投げる事で地面に広範囲の羅盤フィールドが展開される。そしてダイスを投げる事で回復と副次効果が変わるのだ。
『本気、見せていただけますか？』
　不意に、キーシェイロンの声が聞こえた。彼は前衛の攻撃を捌きながらも天に掌を向け、くるりと円を描く。そして、詠唱を続ける真白へと金色の光が降り注いだ。希にとても怖いバットステータス（以下BSと表記）『黄金化』を引き起こす『黄金の眠り』を放ったらしい。
（詠唱し続けたら狙われますか）
　梢が咄嗟に真白を庇うよう立ちはだかるも、２人ともBS【麻痺】を喰らってしまう。
　だが、それは瞬時に開放された。円が投げた羅盤フィールドが放った回復術の副次効果で麻痺回復が出たのだ。
「ありがとございます～！　助かりましたよ！」
「お互い様だからねー」
　真白の分まで梢が礼を述べれば、円は苦笑する。中～後衛をカバーできるほどの広さを持つ羅盤フィールドを見、もう一度回復すると治癒士メンバーに前衛陣の治癒を頼んだ。
「これは保険程度だが」
　『そなえよつねに』という異常耐性を高め力なども強くなる魔法を、八神修は前衛たちへと施す。MP消費はそこそこだが思いのほか長続きするので【SOC】界隈では玄人好みらしい。
　それはさておき、少し離れた所では恵御納夏朝が拳闘士たちを癒していた。彼女の視線の先では、新田亮が『受け流し』でキーシェイロンからの攻撃を捌き、『連打』で巧みに攻めていた。だが、『連打』の弱点は僅かな間動けない事である。その隙を、キーシェイロンは的確に突いてきた。
『おやおや』
「くっ！」
　亮に強烈な一撃が入った瞬間、一定確立で自動反撃を行う『カウンター』が炸裂する。
「今だ！　金猫いくよっ！！」
　その掛け声と共に黄金の可愛いネコ型の光が亮へ飛び、その傷を癒す。『ふわふわきんねこヒーリング』（以下金猫と表記）という中～遠距離対象の回復スキルだ。
　亮と入れ違いに来たのは、接近戦特化スタイルの羽生碧南。彼女はキーシェイロンの亮へ対する容赦ない攻撃に僅かに息を飲んでいた。
（飄々としてるけど、侮れないわね。地上に降りている今なら……まだ奥の手は温存できる！）
　普段からバスケットでの練習で鍛えられた瞬発力が拳と共に唸り、キーシェイロンを怯ませる。だが、その反撃は亮に比べてちょっと穏やかな気がした。