【ゴアラよ永遠に……】

「ゴアラさんかわいいのですー、なでなですりすりなのですー」
　ずしん、ずしん。ずずずずずん！　歩くだけで街並みをことごとくぺしゃんこにしてしまう、宇宙怪獣エロスことエロ・イーアールオー。シーサイドタウンをぷちぷちと踏み慣らしながら悠々歩み寄ると、がば！　ゴアラをぬいぐるみのごとく撫でモフし始めました。
「なでなでー、すりすりーなのですー」
　ちらりっ。その巨大な瞳は、傍らで立ち往生しているカマラやヌマタにも向けられましたけれど……ぷいっ！　二体はかわいくないので、無視されました。き、きしゃーーーっ！？（そりゃないぜ！？）　ヌ、ヌマっ……ヌマーっ……！（泣）　がっかりです。
「ま、負けないでゴアラ！　君なら、宇宙怪獣にもきっと勝てるよ……！」
　ちょっぴり思っていたよーな展開とは違いましたけれど、ともかく桜庭 円は、在りし日の思い出……ゴアラの好きだったあの子守歌をしっとりと歌い上げ、鼓舞します。
　怪獣たちの繰り広げる決戦の中、流れる美しい歌声。素朴で切ないメロディー……まぁ、ゴアラが巨大美少女にすりすりされてるのを、巨大クモと巨大おっさんがちょっと羨ましそーに見つめてるという、ちょっぴりシュールな絵面ではありますけれど。映画的お約束な演出としては、なかなかにグッド！
「あ。そういえば、まだあんまり怪獣さんらしいこと、してなかったのですー」
「！？」
　言うなり、みょんみょんみょんみょん……宇宙怪獣エロスが何の脈絡もなく唐突に、さらに巨大化していきます。あっという間に身長は１７５メートルほどに……ででで、デカいっ！　いろいろとデカい！　ゴアラやカマラ、ヌマタを優に超える超・巨大怪獣となったエロスは、
「えーいっ。なのですー」
　ひょいと足を上げて、見えそう！　見えそう！　なんて言ってる暇もなく。ぷちっ！　ずずずずずん、ひと踏みで九夜山を、真っ平らのぺっちゃんこにしてしまいました。
（こ、こんなのが相手なんて、聞いてないぞ……！？）
　巨大クモ怪獣、鎌八 まもるはさすがに怯んで、わずかに残った星ヶ丘地区の端っこへ、じりりと後ずさったものの。
「倒すのよ、カマラ！　世界を変えるその力で、ゴアラもろとも、宇宙怪獣を倒すのよっ！」
　びし！　と指を差した、美人白衣科学者ミニスカポニテ（予定）な神野 美野梨の叱咤激励が、彼にとっては、何にも勝るエールとなったようです。
（そう……オレの名は、まもる。ポニテを守る、愛の狩人……ラブ・ガーディアンだ！！）
　カマラ、転身！　８本の足をぐぐっと丸めて力を溜め、大ジャンプ！　宇宙怪獣エロスへ、決死の特攻……ッ！！
（ポニテのために、俺は逝っ）
「クモ、かわいくないのですー」
　ぺちんっ！　残念ながらビンタ一発、無情にもカマラ、あえなく撃沈！　ひゅるるるーんとすっ飛んで、木天蓼湾へぼちゃん。ぶくぶくぶく……沈んでいったクモ怪獣が、再び浮上を果たすことは無かったということです……。
　慌てたのはサラリーマン怪獣、ヌマタです。ヌヌヌ、ヌマーッ！？
「何をやっとるんだ、ビビってないで早く戦えー！　ゴアラと宇宙怪獣をまとめて倒してしまえヌマターッ！！」
　屑利 執の何とも理不尽な叫びに、巨大な身体をびくりとさせたヌマタは、ヌマー……いかにも仕方ないといった風情で、びくびくとしながらもエロスと対峙します。
　が……まぁ、おそらく皆さんの、予想通りというやつでして。
「おじさんも、かわいくないのですー」
　ああ！　エロスがぷくーっと頬を膨らませて、ぴゅうううう……息を吹きかけただけで、びびびびび、びりびりびり！　ヌマタの一張羅（たぶん）のスーツは一瞬にして散り散りに破れて吹き飛び、ヌマタは哀れ、しましまストライプのトランクス一丁になってしまいました。ヌ、ヌマ～ンっ！（恥）　赤面しつつ手ブラで胸を隠したヌマタ、恥辱により戦闘続行不可能！！
「……かくして寝子島の、いいえ世界の命運は、ゴアラに託された。というわけね」
「ええ。ここで宇宙怪獣を倒さなければ、全てが滅ぶ……」
　もはや、見守るのみ。椿 美咲紀も一条 紗矢香も、生き残った僅かな寝子島住人たちも。既に概ね壊滅状態となった寝子島の端っこから、遠い目で決戦の行く末を見届けるだけ。
　けれど、きっと大丈夫！　何しろ今や世界のスーパースター、寝子島の誇る大怪獣、ゴアラ！　どんなに強大な怪獣が相手だろうと、見事に切り抜けてくれるはず……ほら、ゴアラだってやる気です。しゅばしゅば、しゅばばば！　ジャブジャブ、フック！　シャドーのキレも冴え渡って、強大無比な宇宙怪獣へ敢然と立ち向かい、
「もっともっと、怪獣さんっぽいことをするのですー」
　みょんみょんみょんみょんみょん。ずごごごご、どどどどど……ごごごごごごご！！　エロスはまたしても巨大化、身長１７５ｋｍの超・超・超巨大怪獣に……そ、そんなのアリですかー！？
「ゴーアーラーさーんー、あーそーぶーのーでーすー」
　世界中のどんな山よりも大きくなったエロスは足をぐわーっと振り上げて、見える！　見えちゃう！　危ない！
　そして寝子島の全ては、超巨大宇宙怪獣が落とす影によって、すっぽりと闇に覆われて。ゆっくりと降下してくる、やけにキレイな足の裏。
「「「どわーーーーーーっ！！」」」
　ぷちっ！












「…………はっ！？」
　目覚めた日暮 ねむるが周囲へ視線を巡らせると、そこは何やら薄暗い、映画館の中。
「僕、確かゴアラに車ごとブン投げられて……あれっ、もう元の世界に戻ったのかな？」
「ほえー、元のせかい……？」
「あ、はるちゃん」
　お隣ではぼんやり、幼馴染の春山 小枝が、寝ぼけマナコをこしこしとこすっています。
「夢にしては、何だか記憶がはっきりしてるような～。そういえば、最初に聞いたあの眠そうな声も、何だか聞いたことがあるような～……」
　小枝は隣で目をぱちくりとさせているねむるの顔を見つけて、ふと先日に見た、あの夢を思い出します。無自覚なもれいびである彼女は、それが現実にあったことだとは思ってもいませんでしたけれど……むむむ？　なんとなく違和感を覚えて、くりんと首を傾げました。
「なかなか、楽しかったわね！」
　一方、羽生 碧南はむふーっと、ご満悦。カッコイイ自衛官役を、その散り際までバッチリと演じ切って、大満足！　傍らの宮杜 ほのかも、過酷な任務に翻弄されながら、終わってみればこれがなかなか、
「悪くは無かった、かな？」
「お互い、良い活躍だったわよね」
「うんうんっ！」
　ふたりは共演相手の健闘を、互いに称えました。
「ま、何だかんだで」
　ゆったりとしたシートに深く腰を落ち着けて、モブ役をきっちりとこなしたいぶし銀なバイプレーヤー、佐藤 英二はまったりと。
「やっぱり怪獣映画は、映画館で見るのに限るよね」
「そうだねぇ……あ、ゴアラだぁ！」
　曖浜 瑠樹はにっこり、にこにこ。スクリーンではエンドロールが流れる中、劇中の名シーンをリプレイ中。ゴアラがモフモフな毛並みの腕を振り上げて、ぎゃおおおおおおんっ！　とあの声で叫ぶと、
「かわいいねぇ、和むなぁ♪」
　ほわほわほわわん……うっかり発動しちゃったろっこんによって、館内に居合わせた人々は、これでもかとほんわか和みまくったということです。
　そうしてエンドロールがずずいとひと通り流れ終わった、直後に。
「……ん？」
　もはや小学生男子ではない、いつもの高校生に戻った八神 修は、スクリーンに映し出されたその文字に、思わず眉を寄せました。

GOALLA Will Return...

『シン・ゴアラ』、まもなく公開予定！
「続くのかよっ！！！！」