【決戦！】

　きしゃーっ！
（おーっ、すごいな。ユーカリスを仕留めちゃったよ）
　巨大クモ怪獣カマラこと鎌八 まもるは、ド派手な爆炎とその直後にもくもくと空へ上った黒煙を眺めて感心しつつ、特に意味も無く手近な星ヶ丘の小洒落た建物を踏んづけました。
「さあカマラ！　その素晴らしい力で、ゴアラも倒してしまうのよ！」
　なんて声が聞こえて、美人白衣ミニスカ科学者神野 美野梨が、び！　と親指を立てるのが見えたもので。まもるはそのポニテ姿を妄想して、気合入りまくり！　ガチガチ、口元の巨大な牙を鳴らしてきしゃーっと了承の鳴き声を上げ、
（よーし、ミニスカポニテのために、もうひと働きしようか）
　ぴゅるるーっと糸を吐き出して、ぐるぐるぐる。ゴアラの動きを封じます。きしゃー、きしゃしゃーーーっ！
　一方、サラリーマン怪獣ヌマタは相も変わらずおろおろと戸惑いがちながら、ヌ、ヌマーッ……！　ぺこぺこと申し訳なさそうにおじぎしつつ、ツルピカ頭から熱線をしゅば、しゅばーっと放ち、ゴアラを追い詰めていきます。
　小妖精さん、屑利 執は興奮、ぶおんぶおんと腕を振り上げて、
「そのままゴアラを仕留めてしまうのだ、ハゲ怪獣ヌマタ！」
「がんばれがんばれーヌマタさーん！　ふぁいとーっおー！」
　春山 小枝も、いつになくハイテンション！　スペクタクルなシーンの連続で、いつもの眠気を感じる余裕もないようでして、楽しそうに応援しています。
　今や構図は、カマラ＆ヌマタvsゴアラ。劣勢に立たされた大怪獣ゴアラは、ぎゃおん、ぎゃおおんっとパンチでカマラを吹っ飛ばし、ゴアラビームをヌマタの熱線にぶつけて相殺し、ゴアラキック！　ゴアラキック！　大奮闘……とはいえさすがに、徐々に追い込まれていきます。
　勝利を確信したミニスカ科学者は、
「ふっ、勝ったわね……」
「ああ、勝ったな」
　小妖精さんも、うむっとうなずいて。ああ世界の大怪獣ゴアラ、このままぽっと出の新米怪獣たちに、さくっと退治されてしまうのでしょうか……！？　怪獣映画のお約束的に、そんな展開ってアリですか……！？
　という、そんな時のことでした。
「「やめてーーーっ！！」」
　ゴアラへ届く少年少女の悲痛な声、清らかなる願い！



「ゴアラは、悪い怪獣じゃないんだよー！」
　桜庭 円は、その場に集った人々……モブの人やら科学者やら事件記者やら、なぜだか都合よくいっしょくたに集まった彼らの前で、力説します。
「何年か前のこと。地質学者のお父さんの調査についていった時、ボクは森の中で、迷子になってしまったんだ」
　その表情は、真剣……！　少なくとも見た目には。円ちゃん渾身の、マジ演技です！
「深い森の中、ひとりぼっちで泣いていたボクは……見つけたんだ。気持ち良さそうに眠っている、ゴアラを……！」
「そう。父の施した封印によって、ゴアラは森の中で静かな眠りについていた。偶然にも、あなたがそれを解いてしまったのね」
　一条 紗矢香はもちろんのこと、あれっ適当に意味深そうなこと言ってただけなのに、繋がってる……？　なんて、顔には出しません。円の演技に乗っかって、さも辻褄が合ったような納得顔を浮かべたのみ、こちらもさすがの演技派なのです。
　円はうなずいて、
「怖くて引き返そうとしたけど、うっかり足元に落ちてた小枝を踏んでしまって、気付かれてしまったんだ。でも……起き上がったゴアラは、ボクを殺そうとしたり、食べようとしたりはしなかった。それどころか、迷い込んだボクに、指を差して帰り道を教えてくれたんだ……！」
　いかにもそんな、過去からの積み重なった想いであるかのように、円は情感タップリ！　語ります。これが全く、ついさっき思いついたストーリーだったりしますけれど！
「その日から、ボクはひとりで森の中に入っては、ゴアラのところへ通い続けた。ボクの歌う子守歌を、彼は喜んでくれた。ボクは何度も何度も、彼に子守歌を歌ってあげたんだ……でも。ある時を境に、彼は森からいなくなってしまった……」
　きらりん。目元からは、涙のひとしずくすらぽろりとこぼして見せました。感動の名演です。
「ゴアラは、悪い怪獣じゃない。寝子島に現れたのも、何か理由があるはずなんだ……」
「そうだよ！　お願い、ゴアラを殺さないで！　僕に、ゴアラと話をさせて！」
　こちらもまたゴアラとの運命的な出会いを語る、１０歳の少年八神 修。彼は、ゴアラの首に巻かれているネックレスが、かつて自分が贈ったものだと人々へ話して聞かせます。隣では事件記者、椿 美咲紀もきりりっとマジメモードで、彼の言葉をびしりと裏打ち。
「修君は、ゴアラと話ができるのよ。彼にゴアラの目的を聞き出してもらいましょう」
　えっマジで？　と周囲の人々が修を見つめると、彼は力強くうむンとうなずきました……今の修は小さな少年なのに、何ともこう頼りがいのありそうな、このカンロクときたら！
　テレパシーな修はさっそく、カマラ＆ヌマタの攻撃を防戦一方でどうにか凌いでいるゴアラへ、みょいんみょいんみょいん。念話によって話しかけます。
「どうしたの、ゴアラ？　どうして暴れているの……？」
　ぎゃおおおん、ぎゃおん！
「うんうん」
　ぎゃお、ぎゃうん、ぎゃおおおおん！
「ふむふむ、それで？」
　ぎゃおぎゃお、ぎゃおん！　ぎゃおおおおん！！
「な、なんだってーーー！？」
　今明かされる、驚愕の真実！　ゴアラ襲撃、その真相とは！！
「ゴアラは……ゴアラは！　この寝子島の地下に眠る、強大な宇宙怪獣から、島を守ろうとしていたんだよッ！！」



　ずずずず、ずずん……今までよりもひときわ大きい、タダゴトでない震動が、あたりをどかんと揺らしました。
「ほえー、何だろうあれー？」
　がたがたと揺れながらもぽやや～んとつぶやいて、小枝が指差した先は、旧市街。ちょうど寝子島神社の真下あたりから、ごごごごご……ずずずずず、どどどどど！！　それは、姿を現しました。
「怪獣さんっぽいこと、するのですー」
　エロ・イーアールオー！　見た目は黒髪の、スタイル抜群な美しい少女。けれど巨大な、あまりにも巨大すぎる美少女！！　その出現の余波によって、旧市街一帯は一瞬にして、ずぎゃんっと壊滅してしまいました。
　しかも、身に着けているのがウスーいキャミソール一丁なもので、そんでもってあんまりにもデカイもので、何と言いましょうかこう、その……見えそう！　見えてしまいそう！
　思わず皆さん、叫びました。
「「「エローーーいッ！！」」」
　満場一致で、宇宙怪獣『エロス』と命名されたということです。