地獄めぐリゾート　in 魔界｜リアクション

地獄めぐリゾート　in 魔界

■等活地獄

「刃物好きの僕には等活地獄がピッタリかな」
　鋭い眼光の美形、サキリ・デイジーカッターがそうつぶやいたとき、辺りからリゾートっぽい雰囲気は消え失せていた。
「以前に魔界へ来た時とは随分違うな。ここが等活地獄か……刃物が沢山あって素敵な場所だね」
　等活地獄。いたずらに生き物の命を断つ者、生前争いが好きだった者が落ちると言われている地獄だ。
　鉄の壁に囲まれて逃げ場がない。あちこちに刃物が落ちている。
　刃物の多くが赤く汚れており、金棒を持った鬼達がそこらをうろついている。
　だが体のどこかに刃物を帯びていないと精神が不安定になる刃物依存症であるサキリにとっては、むしろ落ち着ける場所かもしれない。
　サキリは岩陰に隠れながら、鬼達に見つからないよう注意深く地獄を探索して回ることにした。
　どうやら鬼達は気づかずに行ってしまったようだ。
　
　岩陰から出たサキリは変わった樹があることに気づいた。
「おおー凄い樹木から刀が生えているよ。これが噂の刀林処か面白いなー」
　その時、サキリの頭上からたくさんの剣が降り注いだ。
「おっと」
　喧嘩は日常茶飯事で敏捷性に優れたサキリは、アスレチック感覚で剣を回避した。
　周囲ではよけられなかった亡者たちが痛みに悲鳴を上げ血を流しているが、気に留めない。
　それよりも、血とは違う鼻が曲がりそうな匂いが気になった。
「ん、この匂いどこから……？」
　続いて煙をたてて熱鉄の雨が襲ってくる。
　ジュウッ。
　サキリの服の袖に熱鉄が当たり、布地が焦げた。だが肌は焼けずに済んだ。
　また亡者たちの阿鼻叫喚が起きる中、サキリは匂いの元に気づいた。
「屎泥処か……」
　屎泥処（しでいしょ）には、沸騰した銅と糞尿が沼のようにたまっている。
　流石にこれはスルーして、サキリはその場を離れることにした。

「新入りか。有り難い責め苦を与えてやるとしよう」
　金棒を持った鬼二匹に見つかってしまった。
　言うが早いか襲い掛かってくる。
「殺し合い上等で行くよ」
　サキリは服の中に隠し持っていた多数の小型刃物の中から、２本を取り出し構えた。
　小太刀二刀流だ。
　ろっこん『斬空赤刃』で高速転移、襲い掛かってくる赤鬼をかわし、青鬼の背後に瞬間移動し、赤く輝く刃で切り裂く！
「こ、こいつ、ちょこまかと……」
　切られた鬼がうめきながら、さらに力のこもった攻撃を繰り出す。
　だがサキリは再び転移する。連続転移での撹乱と一撃離脱戦術だ。
　切って切って切りまくる。それはまさに地獄に相応しい戦いだった。
　刃物の一本が鬼の角に当たり刃こぼれしたが、サキリはすぐに落ちていた刀を拾って攻撃する。
　鬼は血煙を上げて倒れたが。
　涼風が吹いて、獄卒の「活きよ、活きよ」という声がすると、傷が消えて再び立ち上がってきた。
「アハハハハ！　いいねぇ地獄最高だ！　刃物は使い放題いくらでもあるし切って切られて殺し合いが永遠に続く。これは僕にとってむしろ天国なんじゃないか？」
　サキリは赤い目を暗く燃やし、狂ったように笑う。

　だが、ふと我に返った。
（いや……違うか……今の僕の居場所は寝子島だ。身も心も地獄に囚われないように気をつけないといけないね）　
　サキリは、一旦この場を去ることにした。
（他の地獄も見て回りたいな）